ユニバーサルエッジを科学する ―工学系学術講演会での発表―
更新日:9月28日
2026年9月15日~17日の3日間、宮城県の東北大学で学術講演会が行われ、私は最終日の一番手でユニバーサルエッジの「刃離れ効果」について論文を発表しました。
講演会の正式名称は「公益社団法人 精密工学会 2026年度 秋季大会 学術講演会」です。
研究チームは、「Newton」という科学雑誌を通してご縁をいただき、私の活動に興味を持ってくださった岐阜大学の畝田先生、そして「第31回KENMA研究会」でお会いし、包丁の動きと切れ方の研究をされている金沢学院短大の由良先生の3名でした。
私にとって初の「学会発表」だったのですが、多くの方からご協力いただき、無事に終えることができました。
先生方からは、発表直前まで多大なご協力と助言をいただきました。
以下、発表当日の写真です。
※会場内は撮影禁止のため写真はありません

大学構内

いつか同じ大きさで「UNIVERSALEDGE」も

畝田先生と
学術講演会の案内・多数の法人が参加しました

受け付けは大学内のカフェ

講演する側の名札をいただきました

◎発表の内容など
発表の内容や感じたことを簡単にまとめたいと思います。
●片刃と両刃の違い(刃付けの種類)
刃先の片方だけ砥いだ包丁が片刃、両側から砥いだ包丁が両刃。
●片刃の洋包丁と片刃の和包丁の違い
片刃にも刃離れするものとそうでないものがある。
●刃離れと切り込み抵抗のバランスがよい刃先厚の研究について今後も継続が必要
●切った食材が刃離れする理由について明らかにする
「食材の水分・切り刃の長さ・研ぎ角」のバランスによって刃離れの条件がある。
詳しくは以下を参考に。
●包丁の「切れ味」が注目されがちな中で「切れ方」に注目するのは新しい視点
●高速カメラでの刃離れ動画の撮影がしたい
●私の発表は身近なテーマだったので、興味を持っていただけた
●私が「楽しい」と感じる切れ方を「客観視・数値化」する作業が新鮮だった
●現在の包丁の「切れ味(切り込み抵抗の少なさ)」と「薄切りの刃離れ(切れ方)」は、トレードオフの関係にある
俗に言われる「切れ味が良い」を追求するほど「刃離れ」から遠い包丁になるため、その条件の中で扱いやすさのバランスを考える必要がある。
「刃物用鋼材は硬さと粘り強さの両立が理想だが、現実はトレードオフの関係にある」というのと似ている。
●上記にあるように、ユニバーサルエッジは、ある意味「切れ味を犠牲にして刃離れを優先させた包丁」なので、切れ味は家庭用として必要充分とは言え、「究極」ではない。
ユニバーサルエッジを使った人から「切れ味が良い!」と言われることには少し違和感がある。
↓ユニバーサルエッジの切れ味について
↓ユニバーサルエッジの特徴の中に「切れ味が良い」という項目がない(世間にはそもそも切れ味とはなにかという定義がない)
※「切れ味」と「刃離れ」はトレードオフの関係なのだが、「刃離れ性能(片刃の洋包丁の)」について検討された歴史がないため、「刃離れを犠牲にして切れ味を増す」という逆の概念は、家庭用万能包丁史上一例もない
●「刃離れ」にまつわる新語の必要性
「切れ味が良い」と評価する人の中には、「切れ方が楽しい」と言いたい人もいるのかもしれないが、表現する言葉がないため切れ味が良いと言っているのかもしれない。
刃離れの良い包丁がなかったため、刃離れの楽しさを示す新しい言葉がない。
新しい言葉を作る必要があるのではないか。
◎資料作り
この発表のために数か月前から少しずつ始めた資料作りは、ここ数年の活動の総集編のような気持ちで感慨深く進めることができました。
10年前に片刃の洋包丁に出合って以来、その楽しさや便利さを伝える活動をしてきましたが、「楽しいんです・便利なんです」と語るよりも、なぜ楽しく感じるのか、なぜ便利なのかと視点を変えて答えを探すことで、これまで気付かなかった新しい課題が見えてきた気がしました。
※ここ数年の活動は以下です
◎まとめ
これまでにご縁のなかった「科学者・研究者」が集まる場に参加でき、刺激になる体験でした。
包丁の世界は、科学的根拠よりも「過去の常識」が根強く残っている面があります。
特に職人の世界では情報のアップデートが遅れる傾向があり「先輩職人の言葉が絶対」という場面が多いかもしれません。
身近なところで言えば、「ステンレスは切れ味が悪い」「プラスチックのまな板は硬い」などの言葉は、近年の新素材についてアップデートできていない人の言葉ではないかと感じることがあります。
包丁の切れ味については、「感性」がとても重要になる場合があるので、個人がどのように感じるかということは自由だと思います。
しかし包丁選びなどで個人の趣味を押し付けてしまうと、極論すれば毎月1万円のメンテナンスをしないと切れ味が保てない10万円の全鋼の包丁を買わなければならないことになりかねません。
「家庭用の包丁として」と考えるなら、100円のスンレス包丁でも必要充分な切れ味を出すことは可能です。
今回の研究を経て、やはり「データ」の大切さを感じました。
私自身、経験だけで物事を判断してしまうクセがあるので、「科学的視点」を取り入れることについて意識していこうと思いました。
畝田先生は岐阜大学工学部の大学院で教授を勤めながら、「岐阜関刃物会館」と共に「関の刃物サステナブル技術革新拠点」を設立し、その拠点長として「関の刃物産業のDX・技術革新プロジェクト」を推進しています。
「科学的視点」や「社会的立場」で言えば、まさに刃物や研磨の第一人者と言える方です。
その中でユニバーサルエッジの特徴や私の活動に興味を持ってくださり、科学的視点からユニバーサルエッジを評価することをご提案くださいました。
科学的なことをなにも知らない私にとって、今回の共同研究は、たいへん有意義なものでした。
今後もお互いに協力しながら、学会で発表できるような研究を進めていけたらと思っています。
余談1:和包丁はなぜ片刃なのか
これは本題から逸れるのですが、以下は「和包丁が片刃なのはなぜか」という疑問についての個人的な考えをまとめたものです。
冒頭に、「包丁は識字率が低い時代の道具です。先人の言葉も大切ですが、自分でも考えてみてください」というメッセージがあるのですが、今回、学会での発表の準備をする過程で、あらためて自分で考えることの大切さを感じました。
ユニバーサルエッジは和包丁とは違うタイプの「片刃」なのですが、ユニバーサルエッジが片刃の理由は明確に説明できます。
しかし和包丁が片刃の理由を明確に説明できる人は少ないように感じます。
和包丁はなぜ片刃なのか、その理由に興味がある人に参考にしていただきたい内容です。
「内容に間違いがある・実験が必要」など、お気づきの点がありましたらご指導いただけると嬉しいです。
今後の研究テーマにさせていただくかもしれません。
余談2:重なった思い出
今回の発表では、バイクで富士スピードウェイを走った経験を思い出しました。
私が修行したレストランのオーナー夫妻がライダーだったこともあり、バイクの免許を取った私は、これまでに約150台のバイクに乗ることができました。
実はバイクの免許を取りに行ったとき、初心者だった私はなぜか「アクセル全開+クラッチをパッと離す」をやってしまったことがあり、バイクだけウイリーしながら飛び出し、私はその場で転倒しました(笑)
その後、自分のバイクでは立ちゴケを含め何度も転びましたが、少しずつバイクの楽しさを知り、最終的には日本で最高峰と言える「富士スピードウェイ」を走り、ステップやヒザを擦って走ることができました。
※↓体験走行枠で走ったときのブログがありました
今回の経験は、そのときの思い出と重なりました。
レストランでの修行当初、私は包丁に両刃と片刃があることさえ知りませんでした。
しかし野菜の薄切りの楽しさを知ってから包丁に興味を持ち、研究した包丁は試乗したバイクと同じ150丁になりました。
ユニバーサルエッジは生徒さんにも人気があり、開発を決意したのですが、共同開発のオファーでは何度も挫折がありました。
しかし現在は「PROCEED」と「JOIZU」を開発し、ユニバーサルエッジの楽しさや便利さをお伝えできるようになりました。
そして学問では最高峰と言える「大学」で、ユニバーサルエッジの最大の特徴である「薄切りの刃離れ」について発表させていただくことができました。
バイクも包丁も、超初心者から最高峰の場へ足を運ぶことができ、「10年」という時の流れを懐かしく思い出すことができました。
ユニバーサルエッジの論文を大学の学会で発表した経験は、私の人生の忘れられない1ページになりました。
畝田先生を中心として、ご協力くださったみなさまに感謝です。
以上です。
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以下は個人的なメモです。
◎今後の課題
・刃離れする理由の実験
両刃包丁で食パンを切る→刃離れする
和包丁(片刃)で食パンを切る→刃離れする
刃離れする理由は「水分がないから」なのか「パンに気泡があるから(食材側にディンプルがある=ディンプル付き包丁で切る効果に近い)」なのか(予想はできる)。
両刃だからくっつくというわけではない。
片刃だからくっつかないというわけではない。
和包丁の切り刃の長さが15㎜だと直径15㎜のキュウリはくっつくが、直径100㎜の大根の薄切りはくっつかないかもしれない。
食材の硬さと砥ぎ角によってはしのぎ筋を超えて平の部分にくっつく可能性がある。
食材の硬さは厚切りにすると硬くなるので、1㎜厚と2㎜厚ではくっつき方が違うと思われる。
多くの場合、切り刃と食材の間の水分が、「くっつき」の原因と予想される。
切り刃の長さと角度によって、食材が離れやすい条件がある。
片刃の洋包丁の切り刃の長さが例えば0.2㎜(極端に短い)だと、食材がそのまましのぎ筋を超えて刀身にくっつく(藤次郎F-875の2016年以降モデル)。
逆に20㎜だと切り刃そのものに食材がくっつく(和包丁)
食材の硬さや高さ、切る厚さによっても条件が変わるが、汎用性が最も高い刃付けが現在のユニバーサルエッジ。
包丁の中でも、小刃がユニバーサルエッジの条件に近いものは刃離れ効果がある。
・刃面について
切り刃の刃面長が同じでも、表面が鏡面かザラザラかによって刃離れ効果に差はあるか。
経験上「差がある」という推測のもとユニバーサルエッジの刃面の仕上げはザラザラの仕上げになっている。
刃先の0.1ミリ程度は少しだけ磨きこむように番手を上げている(刃面はアルミナ400・刃先はフエルトと白棒)。
どの仕上げが効果的か。
・コンベックスかフラットかについて
切り刃の「長さ」が同じでも、切り刃の断面の形がコンベックスとフラットでは刃離れ効果は違うのか。
予想では、コンベックスの方が食材との接点が線に近くなるので、刃離れ効果が高い(フラットグラインドは接触が「面」に近い)。
しかし見かけの砥ぎ角が同じでもコンベックスは刃先の角度が鈍角になるので、その角度が刃離れ効果に影響している可能性もある。
特に硬い食材は鈍角の刃先で切るほど刃離れ効果が上がると思われる。
もちろんその分切り込み抵抗が増えるので扱いにくいと感じる人もいる。
人間が砥石を使って砥ぐ場合(一般家庭の砥ぎは電動を使わない)、関節を中心とした円運動になるため切り刃はコンベックスになる。
新品時には電動を使うのである程度フラットな面を出せるが、その後は人間が砥石を使って砥ぐため刃先が鈍角になる。
※ホローグラインドは平らな砥石を使った作業では人間に不可能なので、家庭用万能包丁の砥ぎ方から除外してよい
・砥ぎ角について
18度を基準としているが、機械が砥げばしっかり18度のフラットグラインドになる。
ベルトサンダーの場合は人間が砥ぐので若干コンベックス寄りになる可能性が高い。
さらに、家庭で手研ぎの場合、見かけの砥ぎ角が18度でも、刃先は20度を超える鈍角になる可能性もある。
家庭で砥ぎ進めるほど刃離れ効果が上がるが片刃のデメリットも出やすくなる。
刃先をフエルトベルトで仕上げる場合、強く押し付けるほどフエルトベルトが刃先を包み込むように変形するため、砥ぎ角が鈍角になってゆく。
見かけは18度でも、厳密に見れば刃先の1000分の1㎜レベルの刃先には、鈍角の細い糸刃がつくと言えるかもしれない。
「フエルトベルト+白棒」の仕上げをした場合の砥ぎ角は何度ということになるのか。
・楽しさを伝えたい
1月の「第一回U-1グランプリ(技能競技会)」では、刃離れ効果を維持しながら平均100分の1ミリの誤差でキュウリの薄切りができることがわかった。
以下動画0:52~ (2026年1月6日U-1グランプリ動画より)
これからも、両刃包丁では不可能な「安定感」と「楽しさ」を伝えるための方法を考えたい。
第一回U-1グランプリ動画より
1㎜の厚さで20枚切る種目(結果は20.2㎜でした)

スライサーを使う場合、利き手のケガや洗い物が増えること、厚さの調整ができないこと、そして砥ぎ直しができないことなどがデメリットになる(厚みの調整ができるスライサーもある)。
ユニバーサルエッジは利き手のケガの防止を中心に、上記を全て解決できる。
「スライサー」でのケガについて ―国民生活センターの注意喚起―
これまでの両刃の家庭用万能包丁は薄切りが苦手
↓
だから家庭ではスライサーを使う
↓
スライサーを使うから利き手のケガが絶えない
↓
スライサーのケガについては国民生活センターもメーカーも悩んでいる
↓
ユニバーサルエッジを使えばケガの防止だけでなく、洗い物の軽減、保管スペースの節約、資源の節約などにもつながる(食材の厚みの調整や刃の砥ぎ直しもできる)。
↓
ユニバーサルエッジの習得は新しいスマホに慣れるより簡単(笑)
このようなことも学会で発表できないか。
考察2026年9月



