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なぜ片刃の洋包丁がなかったのか   ―静岡放送(SBSテレビ)スタッフからの質問―

更新日:4 日前


今回は「なぜ片刃の洋包丁がなかったのか」というテーマです。

ちょうどこの記事を書き終わろうとしていたとき、海外との貿易をしている「生活雑貨のバイヤー」という方から、以下太文字を含むメールをいただきました。



業務上、刃物に関してはかなり色々と見て使っておりますが、「片刃の洋包丁」は初めてです。御社ページの読み物を色々読ませていただきましたが、なるほどなるほどと思う事ばかりで、非常に興味を持ちました。私自身、刃物好きで色々な刃物を研ぐことを日常的に行っており、両刃と片刃の研ぎについて、片刃の方が圧倒的に研ぎやすいことを実感しておりますので、本当に目から鱗というか、感嘆してしまいました。―(中略)― 久々にウキウキする商品に出会い、前のめりな長文になってしまい申し訳ございません。何卒、ご検討いただけましたら幸いです。よろしくお願い致します。



この方は、ユーザーではなく「刃物が好きなバイヤー」なので、常に多くのアンテナを張っているはずです。

そのような方が「片刃の洋包丁は初めて」とおっしゃるということは、これまでにメーカー製の片刃の洋包丁はなかったか、あったとしても「片刃」を一番のウリにして販売することはなかったということだと思います。

また、片刃の砥ぎやすさにも触れてくださり、とても嬉しいオファーでした。



では、以下から本文です。




◎静岡放送スタッフからの質問


先日、「ユニバーサルエッジ(片刃の洋包丁)」について「静岡放送」が南伊豆まで取材に来てくださったときのことです。

収録が終わり、お帰りの準備をしながら雑談をしているときに、スタッフの1人から質問をいただきました。



「なぜいままで片刃の洋包丁がなかったのですか?」



この件については以前書いたことがあるのですが、今回、さらに詳しく書いてみたいと思います。

「なぜいままで片刃の洋包丁がなかったのか」、興味のある方はじっくり読んでみてください。


※「ユニバーサルエッジ」とは、包丁の新しいカテゴリーの呼称です。

今回のブログ中では「片刃の洋包丁」と「ユニバーサルエッジ」はほぼ同義です。

詳しくは以下を参考に


※和包丁の「片刃」と洋包丁の「片刃」はまったく違うものです。

和洋の片刃の違いについては以下の2つのブログ記事が参考になると思います





◎「両刃」とは


はじめに「両刃」の洋包丁について確認です。


家庭用万能包丁は、「洋包丁」と呼ばれるものが主流です。

そして、洋包丁の刃付けは、「両刃」が主流です。

「両刃」とは、刃先を左右両方から砥いだものをさします。

左右の砥ぎ角や割合に差がある場合でも、左右両方から砥いであれば「両刃」と表現されます。


参考までに、包丁の刀身の断面について略図を示してみます。

両刃と片刃

上図の「両刃群(6例)」とあるものは全て「両刃」の刃付けです(ほんの一例)。

グレーの部分が刀身で、赤い部分が刃として砥ぐ箇所なのですが、両刃群は左右共に砥がれていることがわかります。

両刃群の包丁は、刀身の太さ、刀身の断面の形、砥ぎ角、左右の砥ぎの割合、フラット、ホロー、コンベックスなど、形状や数値の組み合わせは無数にあります。


一方、図の右にある「ユニバーサルエッジ」は「片刃」です。

右利き用は右だけ(左利き用は左だけ)砥がれます。

ユニバーサルエッジの刀身の形状や数値の組み合わせはほぼ決まっています。


両刃の包丁では、左右の刃付けが対象、つまり「5:5」の刃付けが本当の意味で「左右兼用」と言え、左右非対称の刃付けの場合は、たとえ両刃でも厳密には「利き手を選ぶ刃付け」です。


このように、両刃でも利き手を選ぶものがありますが、一方で、一部のパン切り包丁のように、片刃でも左右兼用として販売されているものもあります。

参考までに、パン切り包丁が片刃でも左右兼用として販売されている理由は、主に柔らかいものを切るため、刃付けの向きの影響を受けにくいからです(メーカー側の合理化や在庫管理などの都合もあると思います)。


概して、利き手用でない包丁で硬い食材を切ると、扱いにくく感じます。


刃付けについて詳しくは以下を参考に





◎片刃の洋包丁が便利なのは事実 ―和食の職人も使っている―


「片刃の洋包丁」は、プロの間ではシェフが独自に砥いだものが使われていましたが、メーカー製としては販売されていませんでした(過去に販売されていたときもあります)。


新品状態から片刃の刃付けが施された洋包丁「ユニバーサルエッジ」は、2018年から販売が開始され、2024年、「革新性・新規性・独自性」などを重視する2つのコンクールでそれぞれ「新潟県知事賞」と「匠賞」を受賞し、審査員のみなさまの視点から高い評価を得ています。

同じく2024年、ユニバーサルエッジを使って切った紫玉ねぎのみじん切り動画が1億回以上再生されるなど、期待度や注目度も高まっています。



以下はユニバーサルエッジを図解したものです。

和包丁と洋包丁の要素が混在した新しいカテゴリーだとわかります。


ユニバーサルエッジ



刀身の断面形状を示した図

刀身


エピソード ―和食の職人も使っている―


以前、片刃の洋包丁の便利さを示す興味深い出来事がありました。


「和食の職人をしていた」という人にプライベートで会ったときのことです。

「使っている和包丁を全部見せていただけますか?」とお願いしたところ、包丁ケースの中には、錆びて刃欠けしてしまった和包丁が数丁入っていました。


「メンテナンスが面倒なので、仕事を辞めてからは使っていないんです」


とのことでした。


「では普段使っている包丁も見せていただけますか?」とお願いしたところ、見せてくださったものが「刃渡り210㎜のステンレスの牛刀(洋包丁)」だったのですが、その牛刀は「片刃」に砥がれていました。

つまり、「片刃の洋包丁」です。

普段の作業は片刃の洋包丁でできる、とのことでした。


実際に和包丁の「出刃・柳刃」は、両刃の洋包丁でも代用することができ、洋包丁で魚をさばいたり刺身を切ったりする人は多くいます。

そして洋包丁を「片刃」に砥ぐことで「薄刃包丁」の代用もできるようになります。


私の経験からも、家庭で使う包丁の便利さを追求すると、結局「片刃の洋包丁」にたどりつきます。

「元和食の職人が普段は片刃の洋包丁を使う」という事実は、家庭用として片刃の洋包丁が適していると考えている私にとって意味深いものでした。


このように、「片刃の洋包丁」はとても便利な包丁なのですが、これまで販売されなかったことも事実です。

いったいなぜでしょうか。


以下に続きます。




◎なぜいままで片刃の洋包丁がなかったのか


では、以下の見出しに沿って片刃の洋包丁がなかった理由を書きます。

あくまでも家庭用万能包丁の話です。

一部重複する内容もあります。


・概論(大まかな理由)

・「洋包丁は両刃」という思い込み

・「片刃は扱いにくい」という思い込み

・メリットがないと思われていた

・ニーズがないと判断している

・伝統(思考が固定されている)

・和包丁との差別化(和洋の差別化をするため・和包丁を売りたい)

・片刃のメリットを理解できない(メーカーの役員が料理をしない・包丁を使わない)

・挑戦することへの不安(安全策をとる)

・作れなかった1(鋼材の問題)

・作れなかった2(刃付けの割合が9:1になってしまう)

・あえて作らなかった

・忙しいから作れない(売れている)

・作らなくても儲かる

・これまでの主張が矛盾してしまう

・一般ユーザーが片刃のメリットを知らない(自分では簡易シャープナー・研ぎ師は両刃にしてしまう)

・片刃は利き手を選ぶから

・管理が面倒だから(メーカー側の都合)



<余談>

・余談1:似たようなものはある(あるメーカーの片刃風洋包丁)

・余談2:作られたことはあった ―藤次郎F-875―

・余談3:こんな包丁もある ―貝印「わかたけ片刃ペティ」―



・・・



・概論(大まかな理由)

「包丁メーカーに片刃の洋包丁を使ったことがある人がほとんどいない」ということだと思います。

薄い刀身の洋包丁は、適切な刃先厚と砥ぎ角の組み合わせで「片刃化」することで、ユニバーサルエッジのような便利な包丁になります。

しかし昔はその組み合わせを実現できる刃物用鋼材がなく、片刃と言えば刀身が厚く扱いが難しい「和包丁」でした。

ユニバーサルエッジに適した刃物用鋼材が普及する前に、刃物業界全体で「片刃は扱いにくい」「洋包丁は両刃でなければならない」と言い伝えられたのかもしれません。

その結果洋包丁の片刃化の研究が進まず、洋包丁は両刃のまま進化したと考えるのが自然だと言えます。

どの包丁にもメリットとデメリットがあり、メリットが大きければその包丁には存在意義があるはずですが、「片刃」という言葉からイメージされる和包丁の扱いにくさだけがひとり歩きしていたのかもしれません。


以前、多くの包丁メーカーに以下のような主旨のメールを送ったことがあります。


「ステンレスの刀身、刃渡り180㎜、峰厚1.8㎜、刃先厚0.4㎜、砥ぎ角18度の片刃の洋包丁(※)を販売していませんか?販売していないなら一緒に作りませんか?私の生徒さんが全員欲しがる便利な包丁です」

※現在株式会社Yuiが「実用新案登録・意匠登録済み」です


結局、返事をいただけないか、「そのような包丁はありません。作る予定もありません」という反応がほとんどでした。

「私の生徒さんは全員片刃の洋包丁を欲しがるし、プロは片刃に砥ぎ直す人もいるのに、作る側はなぜ初めから片刃の洋包丁を作らないのだろう・・・」

当時の私はこんな疑問を抱きましたが、刃物業界の方々とのお付き合いの中で、徐々にその謎が解けていきます。





・「洋包丁は両刃」という思い込み


プロの中にも「洋包丁は両刃である・両刃の包丁を洋包丁と呼ぶ」と決めている人もいます。

結果的にその人の周りに片刃の洋包丁は存在しなくなりますし、メーカーに要望しないため片刃の洋包丁が作られることはなくなります。





・「片刃は扱いにくい」という思い込み


和包丁は硬い食材を切り分けるのが苦手なのですが、その主な理由が「片刃」という刃付けです。

和包丁は刀身の厚さも厚めのものが多く、硬い食材への切り込み抵抗が強い傾向があります。

それに加え刃付けが「片刃」ではとても切りにくく感じます。

そのため「片刃=扱いにくい」「片刃=プロしか扱えない」というイメージが強く、刀身の薄い洋包丁であっても同様に思われる傾向です。

しかし実際は、和包丁より扱いやすい場合がほとんどです。

むしろ弊社サイトにある動画やこの記事の最後に紹介する動画のように、片刃の洋包丁の方が両刃より適した作業もあります。




・メリットがないと思われていた


片刃は硬い食材をまっすぐに切ることが苦手で、利き手を選ぶ包丁のため、両刃の洋包丁と比較してメリットがないと思われている面がありますが、実際は、少しの慣れで硬い食材をほとんどまっすぐに切ることができ、薄切りが楽にできたり、砥ぎやすかったりするメリットもあります。

また、「両刃は利き手を選ばない」と言われているのですが、厳密に言えば、利き手を選ばないと言えるのは5:5に砥がれた両刃だけです。

右側が6:左側が4の割合なら右利き用と言えます。

このような本質的なことがユーザーに伝わっていないだけでなく、包丁を作る側の人も理解していないことがあり、現在まで「利き手を選び、使いにくい片刃にはメリットがない」と思われていた可能性があります。





・ニーズがないと判断している


上記にもあるように、もし包丁メーカーが片刃の洋包丁のメリットを知らないなら、片刃が発売されることもなく、ユーザーは両刃のなにが不便でどうしたら解決できるかという思考にさえならないかもしれません。

包丁メーカーが「片刃」という概念やメリットを研究し、ユーザーに伝えることで片刃のニーズが増え、片刃のニーズが増えることで片刃の洋包丁の販売数が増えるはずですが、包丁メーカーがその手前段階で足踏みをしている状態と言えます。

包丁メーカーが販売しないことが片刃の洋包丁がなかった理由であったとしても、それを包丁業界全体が「片刃の洋包丁はニーズがない(だから作らない)」と判断していたのかもしれません。





・伝統(思考が固定されている)


洋包丁は伝統的に両刃で作られてきた包丁だったため、包丁メーカーも職人も、その伝統について再思考することなく両刃を作り続けてきた(片刃を作らなかった)のかもしれません。


「洋包丁は両刃」という伝統を守ることで賃金を得ることができる場合「新しいことをしなくても生活していける」というのは、ある意味メリットと言えます。

しかし、思考を固定してしまうと発展性がなくなり、文化や文明の進化にとってはもちろんマイナスです。


片刃の洋包丁を作るには、これまでの伝統を壊していく必要があります。

「伝統」という言葉が悪い意味で固定されてしまうことがないように、個人的には常に新しいしいことや変化を受け入れる必要があると感じています。


これに関連して、私が自分で包丁を砥ぐきっかけになった思い出深い話があります。

以前、割り込みの牛刀を片刃に砥ぎたかったので、伝統のある有名な刃物店にお願いしに行ったことがありました。

割り込み包丁なので、側材を超えない程度の小刃付けのような砥ぎ方をお願いしたのですが、「牛刀は片刃に砥いではいけないんだよ」と断られてしまいました。

南伊豆から4時間ほどかけてその店に行ったこともあり、「それでもお願いできませんか?理論的にはできるはずです」と頼んだのですが、「割り込みは片刃にしてはいけないんだよ」と断られてしまいました。

そのときから私の砥ぎの研究が始まったのですが、「牛刀は片刃にできない・割り込みは片刃にできない」など、砥ぎ師によっては伝統を重んじる傾向が根強いのだと感じました。

「伝統」は大切ですが、「自由な発想」の妨げになることがあります。

私はそれ以来、サービス業で培った「お客様本位」の心がけをさらに強く意識するようになりました。


話は戻りますが、現在の割り込み包丁は、片刃にしても大丈夫な場合がほとんどだとわかっています。

ときどき「割り込みを片刃に・・・」という表記だけを読んだと思われる方から「絶対にダメ」と強く忠告をいただくことがあるのですが、実際はどうなのか、以下の3つの話がヒントになると思います。


私の仕事は飲食店で食事を作ることと、包丁の使い方を教えることだったので、刃物作りの伝統にこだわる必要はありませんでした。

日常の調理の中から「便利な包丁」について考えるのはもちろん、包丁教室の生徒さんやレストランのお客様との会話を通して、現代の刃物用鋼材の特徴が効率よく活かされる刃物について自由に考えることができたのかもしれません。





・和包丁との差別化(和洋の差別化のため・和包丁を売りたい)


ユニバーサルエッジの性能を見るとわかるように、洋包丁を片刃化することで、これまで薄刃包丁の得意分野と言えた「野菜の薄切り・皮むき」の性能を備える包丁になります。

そのため、洋包丁を片刃化すると、和包丁が売れなくなる可能性が高くなります。

和包丁と洋包丁を両方販売しているメーカーは、和包丁との差別化が難しくなり、「和包丁は片刃・洋包丁は両刃(片刃は作らない)」と決めたのかもしれません。


※各包丁の性能比較表はこちらのブログ内を参考に





・片刃のメリットを理解できない(メーカーの人が料理をしない・包丁を使わない)


包丁メーカーの人でも普段包丁を使わないことがあり、包丁作りに大きな影響を与える「役員クラス」の方も例外ではありません。

昔ながらの厚みのある和包丁しか知らない人の中には、「片刃は扱いが難しい」と信じている人も少なくありません。

近代の靭性の高いステンレス素材で作られた薄い刀身の片刃包丁は、和包丁の片刃と比較してメリットが多いのですが、普段料理をしない方にはそのメリットが理解できず、片刃の洋包丁を作る気にならないのかもしれません。

実話として、包丁メーカーの社員さんの中にはユバーサルエッジに感動してくださる人もいす。

特に主婦、つまり包丁を日常的に使っている社員さんは喜んでくださいますが、それを上層部に伝えても、上層部が耳を傾けないこともあるようです。




・挑戦することへの不安(安全策をとる)


私の実演を見たり説明を聞いたりして、片刃の洋包丁のメリットを理解してくださるメーカー役員の方もいらっしゃいました。

しかし、「新しいことへの不安・安全な方を選びたい」などの理由で「製造・販売」に至らないことがありました。

「挑戦することが不安」という考え方からは、片刃の洋包丁は生まれないと思います。





・作れなかった1(鋼材の問題)


これは昔の鋼材の話ですが、昔の刃物用鋼材はもろかったため、刃先を両刃にしないと実用的な強度が出せなかった可能性があります。

また、物資に乏しい時代では、左右兼用の刃物の方が汎用性が高いだけでなく、左右の利き手の砥ぎ間違いもなく、両刃が好まれたのかもしれません。

鋼材の質が高くなく、物資の乏しい時代には片刃の洋包丁は普及しにくかったと思われ、その当時の流れが現代まで続いていても不思議ではないのかもしれません。




・作れなかった2(刃付けの割合が9:1になってしまう)


職人のクセによって、作れなかった可能性があります。

長年洋包丁を砥いできた職人は、「両側を砥ぐ」という習慣が体に染みついていることがあるため、片刃に砥いだ後に反対側のバリを取っただけのつもりが、1割ほど刃が付いてしまうことがあります。

また、10:0の刃付けにしようとすると、反対側は、砥ぐというより「バリを取るだけ」になります。

洋包丁の場合、反対側をベタ砥ぎしてしまうと刀身にキズが入るため、バリを取るには慣れが必要になり、いっそのこと刃をつけてしまった方が作業としては楽ですし、両側から刃をつけてしまった方が切れ味も確実に保証することができます。

研ぎ師の習慣や作業の難易度の関係などで、ある意味「片刃は作れなかった」と言えます(もちろん片刃の洋包丁を量産できる研ぎ師もいます)。





・あえて作らなかった


2018年頃のことですが、ユニバーサルエッジ(片刃の洋包丁)の実演や砥ぎやすさを見た包丁メーカーの役員の方が、その性能に驚き「この包丁が世に出たら他の包丁が売れなくなってしまう」とおっしゃったことがありました。

結局「ユニバーサルエッジを売ったら両刃の洋包丁が売れ残ってしまう」という理由で製造されませんでした。





・忙しいから作れない(両刃が売れている)


メーカー担当の方から「片刃の洋包丁を作りたいけれど、両刃の包丁が売れているため作る時間がない。いつかその時が来たら作りましょう」と言われたことがあります。

言ってみれば、「忙しくて、新しいものを作りたくても作れない」というニュアンスです。





・作らなくても儲かる


包丁メーカーの担当の方から「うちは儲かっているので新商品(片刃の洋包丁)を作る必要はない」と言われたことがあります。

特に現在は海外向けの商品が飛ぶように売れている状況だということなので、新しいものを作る必要はないのかもしれません。

こちらは上記とは違い、「儲かっているんだから新しいものは作りたくない」というニュアンスです。





・これまでの主張が矛盾してしまう


片刃の洋包丁を売ると、両刃の洋包丁の良さについて主張してきたことが矛盾してしまうという考えもあるようです。


この矛盾は、両刃と片刃のメリットとデメリットをはっきり理解し、包丁を使い分けることで解決できるだけでなく、「両刃」と「片刃」の双方がお互いを引き立てあい、売り上げが増える可能性が高くなるかもしれません。

また、片刃と両刃の2種類の包丁があることでユーザーの意識が変わり、切ることがさらに楽しくなります。


下図左側の赤丸欄でわかるように、両刃の包丁は両刃本来の切り込み抵抗の少なさを活かし、左右兼用として使う場合、5:5の刃付けが必要です。

そう考えると、完全両刃と完全片刃の2丁を持つことで、料理はさらに楽しくなるはずです(下図参考)。

※私はユニバーサルエッジがメインです


片刃

備考:ユニバーサルエッジを販売することにどの程度矛盾があるか

「和包丁は使いにくい」という理由で「両刃の洋包丁」だけを販売し続けてきた店が、片刃の洋包丁を「使いにくい」と否定することはある意味矛盾しません。

しかし「和包丁」を販売し続けてきた店が片刃の洋包丁を「使いにくい」と否定すると矛盾が生じます。

理由は、刀身が薄い片刃の洋包丁の方が、刀身が厚い和包丁の片刃より扱いやすい場面が多く、しかも砥ぎやすいからです。

つまり、和包丁を販売している店は、ユニバーサルエッジを「扱いやすくなった新しいタイプの片刃包丁・現代の刃物用鋼材によって進化した和包丁」として販売することができます。

また、和包丁を扱わず、両刃の洋包丁だけを販売している店の場合は、「ユニバーサルエッジは硬いものを切り分けるのが苦手ですが、両刃にはできない作業ができる新型の洋包丁です」と説明すれば、矛盾は生まれません。

実際にその通りなので、むしろユーザー本位の本質的な説明と言えます。

つまり、どんな包丁を売っている店でも、ユニバーサルエッジの販売に矛盾は「ない」と言えます。





・一般ユーザーが片刃のメリットを知らない(自分では簡易シャープナー・研ぎ師は両刃に砥ぐ)


包丁メーカーは、一般ユーザーの要望に応じる形で商品を開発することがあります。

ユーザーの要望の中には「薄切りの刃離れ」「砥ぎやすさ」「汎用性」などがあるのですが、多くの包丁メーカーはこれらを「両刃」で実現しようとしています。

ユーザーは主に簡易シャープナーで砥ぎ、研ぎ師は家庭用の洋包丁を両刃に砥ぐため、片刃の洋包丁を使ったことがあるユーザーは皆無です。

そのため一般ユーザーが片刃の洋包丁のメリットに触れる機会がなく、包丁メーカーに対して片刃の洋包丁の販売を要望することもできず、結果として一般家庭に片刃の洋包丁がないということになります。





・片刃は利き手を選ぶから

利き手を選ぶ包丁は、不特定多数が同じ包丁を使う調理の現場や、夫婦で利き手が違う場合に左右2丁必要になるというデメリットがあります。

そのため包丁メーカーが片刃の需要がないと考え、販売しなかったのかもしれません。




・管理が面倒だから(メーカー側の都合)

左右の利き手がある包丁は、右用と左用の2種類作る必要があります。

製造や在庫管理の手間が2倍になってしまうため、片刃の洋包丁を作らなかったのかもしれません。



以上が、いままで片刃の洋包丁がなかった理由だと言えます。


繰り返しますが、プロの世界では、以前からシェフが独自に砥いだ片刃の洋包丁はありました。

そして現在は廃盤になった、藤次郎という包丁メーカーの片刃の洋包丁「F-875」もありました(後述)。


30年以上前にプロの間で「片刃の洋包丁」が存在していたことは確かですが、たとえば現在70代のシェフが、「若いころから片刃の洋包丁を使っていた・師匠は片刃だった」などということなら、50年以上前から存在していたことになると思います。


ちなみに私が修行したレストランのマスターは、15年ほど前から片刃の洋包丁を使っていたようです。

また、南伊豆にある「かくれうなぎ誕生の店 川八」さんの「片刃の洋包丁」という記事の前半部分に、プロの世界では片刃の洋包丁が使われていたことや、岐阜の包丁メーカーに問い合わせたことなど、興味深い記述があります→こちら





<余談>


・余談1:片刃に似たような包丁はある(あるメーカーの片刃風洋包丁)

現在、「片刃風の洋包丁」と呼べる包丁は販売されています。

砥ぎの比率が9:1程度の洋包丁です。

また元々両刃の包丁を「片刃仕様」に砥ぐサービスをしている包丁メーカーもありますが、これはユニバーサルエッジとは刃先厚や砥ぎ角が違います。



・余談2:作られたことはあった ―藤次郎F-875―

メーカー製として過去に存在した片刃の洋包丁は、藤次郎「F-875」です。

しかし刃先厚がユニバーサルエッジよりも薄く、薄切りの刃離れ効果はありませんでした。

これは片刃のデメリットである「切りこみ抵抗・まっすぐに切りにくいクセ」を軽減するために、あえて刃先を薄くして販売していたことが主な理由だと思います。

刀身の幅が2ミリ程度短くなるまで砥ぎ進むことで、刃先厚がユニバーサルエッジとして適切な厚さになり、刃離れ効果が出る包丁になりました。

しかし2017年頃、刀身のロゴが変わったのを機に新品状態の刃先厚がさらに薄くなり、刃離れ効果もなく、単に「両刃より扱いにくい包丁」となってしまいました。

刃先を厚くして片刃としてのメリットを追求すれば差別化ができたと思うのですが、ある意味両刃の特性に近づこうとしたF-875は、その後廃盤になっています。



・余談3:こんな包丁もある ―貝印「わかたけ片刃ペティ」―

「片刃の洋包丁」の一例として挙げられるのが、「わかたけ片刃ペティ」です。

これは日本最大手の包丁メーカー「貝印」が販売する片刃のペティナイフです。

5年ほど前に入手したものがあったのですが、最新のものもチェックしたかったので購入したところ、ロゴと仕様が変わっていたのでその点も書きたいと思います。


写真左が新型、右が旧型(廃盤)です。

※光の反射の都合で新型のロゴはほとんど見えません


貝印片刃

【比較】

新型は裏スキなし、旧型は裏スキあり

新型は峰の面取りあり、旧型は峰の面取りが少しあり

新型は切り刃の面がフラット、旧型は切り刃の面がコンベックス

新型は刃幅が短い、旧型は刃幅が長い

新型は薄切りの刃離れ効果がある、旧型は薄切りの刃離れ効果が弱い


以上が比較です。

総評としては、新型の方が薄切りの刃離れ効果があったり峰が丸めてあったりするので使いやすいです。

公式サイトには「左利きの方はご使用になれません」と書いてあり、右利きの人のために作られた片刃の包丁だとわかります。

「ペティ」という名前なので洋包丁のカテゴリーに入ると思うのですが、旧型の刀身には「裏スキ」がありました。

いずれも幅10㎜程度の切り刃と幅1㎜弱の小刃があるので、全体として「和包丁」の要素もある構造です。

また、ハンドルの太さが同シリーズの牛刀と同じで、ペティの特徴と言える細いハンドルではありません。

しかしそのハンドルの太さや刃幅の太さなどの要因で、力が入れやすかったり皮むき作業が便利な面もあります。

「見た目は洋包丁で、構造は和包丁」、そして「右利き用のみ販売」ということもあり、全体としてコンセプトがわかりにくい包丁という印象です(なにか理由があることは間違いないはずです)。





◎備考


備考1:

ユニバーサルエッジの刃付けについて詳しくはこちら


備考2:

片刃の洋包丁の4種類の刃付けについては下記ブログの後半「◎片刃の洋包丁にも4種類ある」を参考に


備考3:

片刃にも無数の組み合わせがあるのですが、ユニバーサルエッジは家庭用万能包丁として最大限の利便性を発揮するための「数値」がほとんど決まっています。


備考4:

「刀剣」の場合は、「両刃(諸刃)」と「片刃」は違う意味でも使われるので注意が必要です。日本の刀は、基本構造が片刃、刃付けが両刃というパターン、西洋の剣は、基本構造が諸刃、刃付けが両刃というパターンがほとんどです。





◎「片刃」の定義の問題


以下は包丁メーカーの役員クラスの方からお聞きした言葉です。


「片刃の包丁とは裏スキがある包丁のことです。洋包丁には裏スキがないので、片方だけ砥いだとしても片刃とは言いません」。


この定義によると、片刃の洋包丁は存在しないことになります。

しかし藤次郎のF-875(廃盤)は、片刃の洋包丁としてメーカーが販売していました。

刃物業界の中でも片刃についての考え方が違うことがわかります。

「ユニバーサルエッジ」という言葉は、このような状況の中で誤解なく「片刃の洋包丁」を指す言葉として、弊社が独自に作りました。





◎再確認


今回のテーマは「片刃の洋包丁」です。

和包丁の片刃と、洋包丁の片刃はまったく違うので再確認です。


以下は片刃の和包丁と片刃の洋包丁の刀身の断面図です。

グレーの部分が、和包丁と洋包丁それぞれの刀身です。

緑色の部分が裏スキですが、洋包丁には裏スキがありません。

裏スキ



赤い線で示した「切り刃の長さ(砥ぐ面積)」も違います。


和包丁の片刃と洋包丁の片刃の違いについて、詳しくは以下を参考に。





◎ユニバーサルエッジ(片刃の洋包丁)をとりまく動向


片刃の洋包丁の研究を始めてから約10年間、包丁業界の動向を観察して感じるのは、片刃の洋包丁を取り巻く状況が大きく変わったことです。

「片刃」に対する誤解や偏見が以前より少なくなり、これまで洋包丁の片刃化に懐疑的だった方も、片刃の洋包丁に興味を持ってくださっています。

2つのデザインコンクールでの受賞や新聞での報道、そしてテレビ放映などでも、ユニバーサルエッジの「片刃」という特徴を長所としてとりあげてくださり、とても嬉しく思っています。

問い合わせや応援してくださる方も増え、今後さらにこの動きは活発になっていくと思います。





◎まとめ


なぜいままで片刃の洋包丁がなかったのか・・・

その理由について書きました。

様々な視点から考えるヒントになればと思います。


和包丁全盛の時代に洋包丁が輸入されたとき「なぜいままでこんな便利な包丁がなかったのか」と感動した人も多かったはずです。

洋包丁全盛の現在、ユニバーサルエッジを使ったり映像を見たりした人たちの多くが「なぜいままでこんな便利な包丁がなかったのか」と感動してくださいます。

いつか「ユニバーサルエッジ」が世界中のユーザーのお役に立てるときが来るはずです。





◎最後に


では最後に、片刃の洋包丁「ユニバーサルエッジ」で玉ねぎを切る映像で終わります。


日本には、普段からなんらかの形で包丁を使う人が数千万人いると思われます。

弊社が行ったアンケートでは、その80%以上の人が玉ねぎのみじん切りをします。

そして、玉ネギのみじん切りが得意な包丁が「ユニバーサルエッジ」です。


※動画はこちら 作業行程をわかりやすくするため、2画面表示でゆっくり切っています


「ユニバーサルエッジ」を使うと、この写真のように切り終わることができます(少しの練習が必要ですが、買い替えたばかりのスマホに慣れるより楽だと思います(^^♪)。


写真のようにコンパクトに切れると、涙も出にくく、切った玉ねぎもまとまっていて集めやすくなり、なによりも、切ることが楽しくなります。

作業も早いためフードプロセッサーも不要になり、フードプロセッサーの「準備・片づけ・保管」の手間がなくなります。

玉ねぎのみじん切りをする全ての人に、この感動を味わっていただけたら嬉しいです。


※ユニバーサルエッジの得意分野は玉ねぎのみじん切りだけではありませんが、パン切り包丁やチーズを切る「専用包丁」が存在するように、玉ねぎのみじん切りのためだけに使う価値もあります。

玉ねぎのみじん切りが苦手な人でも、使っていて楽しくなるので少しずつ上達するはずです。



10万食の実務経験と150丁の研究から生まれた片刃の洋包丁「ユニバーサルエッジ」。

明治時代に日本に輸入され、急速にシェアを伸ばした両刃の洋包丁が、100年を経た現在、和包丁の片刃のテイストと優れた金属によって洗練され、「ユニバーサルエッジ」として世界へ輸出されようとしています。

世界中のみなさまに「薄切りの刃離れ・砥ぎやすさ・安全性・汎用性・SDGs貢献度」など、切れ味の先にある新しい付加価値を楽しんでいただければと思います。



以上です。

最後までありがとうございました。

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