洋包丁の刃付けについて 両刃の包丁は左右兼用か

更新日:7 時間前

今回は、洋包丁の「刃付け」について、「左右非対称・砥ぎやすさ」などをテーマに私の研究結果(経過)を書きます。


その後に、一例として左右非対称の刃付けで「左右利き手用があります」と説明している包丁と、左右非対称の刃付けで「左利きにも対応しています」と説明している包丁について書きます。


長い話になってしまいましたが、興味がある方はお付き合いください。





先日、「包丁なんでも相談室」に来てくださった左利きのお客様から「両刃の包丁は左右兼用と考えていいのですか?」という質問をいただきました。

私はこの質問に対して「左右非対称の砥ぎなら左右兼用とは言えないです」と答えましたが、同時に、複雑な気持ちで答えるしかありませんでした。

「左右非対称の刃付けです」と宣伝されていても、左右兼用として販売されている包丁もあるからです。

「左右非対称の刃付け」には大きく2つの意味があります。

「割合が非対称」と「刃の形状が非対称」です。

さらにこれらを組み合わせている場合もあり、単純に「左右非対称」と言っても刃の断面の形は多様です。



たとえば右側を多く、左側を少なく砥いだ包丁は、「非対称の刃付け・右利き寄りの刃付け・片刃風両刃」などと呼ばれることがあり、右利きの人が使いやすい刃付けです。





●洋包丁の刃付けについて

図1は、刃付けの比率を単純に表現したものです。

黒線が5:5の両刃の刃付けで、左右兼用と言える刃付けです。

そして赤く塗りつぶしたものが非対称の刃付けです。

視覚的にわかりやすくするため、8:2で表現しました。




図1






図のように、砥ぎの比率の考え方は、大きく分けて(1)と(2)があります。


(1)の8:2は、右側が鈍角、左側が鋭角で、切り刃の長さがほとんど変わりません。



(2)の8:2は、砥ぎ角が同じで切り刃の長さが違います。



これらはどちらも右利きの人が使いやすい砥ぎ方です。



※図1は刃先側数㎜のことを表現していますが、峰から刃先まで「刀身全体の形」が左右の利き手に合わせて作られたものもあります。

ただしその効果は刃先の砥ぎの比率による影響と比較して小さいため、家庭用包丁として考えたときは気にならないレベルです。




また、砥ぎ方にも、基本的にホロー、フラット、コンベックスの3種類があり、ホローとコンベックスには、それぞれ「曲率」があります。



図2







刃付けのときに考えることは、図1の(1)と(2)の組み合わせの比率と、図2の研ぎ方を組み合わせ、さらに刃先厚と砥ぎの角の組み合わせ、金属の性質、切るものなどです。

そして最終的に「何をどのように切りたいか」という目的に応じて砥ぎ方を決めます。

さらに最後の仕上げとして「糸切り刃・小刃」などと呼ばれる仕上げ(微小な二段刃仕上げ)があり、これも考え方によって幅が異なります。

※アウトドアナイフなどの世界では、上記よりもさらにこだわりが多い場合もあります


各包丁メーカーは、それぞれ上記の組み合わせを考え、独自性を出しています。

たとえば、以前私が公認アドバイザーを務めたことのある「吉田金属工業」の「GLOBAL」シリーズは、ほぼ5:5のコンベックスグラインドですが、同社の「GLOBAL-IST」シリーズは、ほぼ5:5のフラットグラインド(微小なホローグラインドかもしれません)です。

前者GLOBALシリーズの刃付けは「ふわっとした刃離れ」、後者GLOBAL-ISTシリーズは「カチッとした軽い切れ味」という表現が合っていると思います。


また、後述するMAC+a(マックプラスエー)という包丁は、上記図1の(2)の「片刃風」の砥ぎ方ですが、右側がコンベックスグラインド、左側がフラットグラインドになっています。

この刃付けにすることで、両刃の特徴(切込み抵抗の軽さと硬いものの切りやすさ)を残しつつ、片刃の特徴(刃離れ)を出そうとしていることがわかります。




ここでひとつ念を押したいことがあります。 各社それぞれ工夫した刃付けになっていますが、その刃の形を維持することは、一般家庭の人では「不可能」ということです。

つまり、「一度砥いだら包丁の特性が変わる・宣伝通りに切れなくなる」、または、新品時の特性を維持するためには砥ぎ直しサービスを利用することになります。



砥ぎ直しサービスを利用すると、砥ぎ直し中の代用包丁が必要になるだけでなく、数回の利用で包丁が買える金額を超えてしまい、いずれにしても現実的ではありません。

特にコンベックス系の砥ぎをしているGLOBALやマックプラスエーは、簡易シャープナーを使うとフラットグラインドになります。

※私がコンベックスグラインドになる簡易シャープナーを知らないだけかもしれません

もちろん、「新品状態の特性を維持できなくてもかまわない」という方は独自に研いでよいと思います。




また、私の研究の範囲でしかわかりませんが、コンベックスグラインドや左右非対称の刃付けを忠実に再現することは、その包丁メーカーの名前で販売している簡易シャープナーでも不可能です。 たとえば、GLOBALブランドの簡易砥ぎ器を使っても、GLOBALの新品状態の刃付け(コンベックスグラインド)を再現できないということです(人間が砥石を使って砥ぐと必然的にコンベックスになるのですが、GLOBALが意図する曲率にはなりません)。


GLOBAL-ISTシリーズのようなフラットグラインドの場合、メーカー公認の簡易シャープナーで砥げば、新品時の刃の再現率は上がりますが100%ではありません。


また、新品時の切れ味を求めても、一般家庭の人が砥石を使って「カチッとした軽い切れ味」を再現することは困難です。

理由はいろいろあるのですが、包丁が硬いため、利き手の反対側がうまく砥げず、左右非対称になっていくこと、人間が砥ぐと関節を中心とした円運動になるため、コンベックスグラインドになるからです。

GLOBALが意図しているのは、刃先4~5㎜のコンベックスグラインドなので、GLOBAL-ISTシリーズの刃先がコンベックスグラインドになっても、GLOBALシリーズと同じになることはなく、どっちつかずの刃付けになってしまいます。



まとめると、「簡易シャープナー」では、番手が低いためフラットグラインドが再現できても新品時の鋭い仕上げはできず、番手を上げられる「砥石」では、鋭い仕上げができても左右対称のフラットグラインドを再現できないということです。

フラットグラインドのGLOBAL-ISTシリーズでも、家庭で新品時の刃付けの再現は難しいです。



包丁が常に新品時の刃付けのままなら、メーカーが狙った快適な切れ方を長時間体験できます。

しかし一度研いだら、新品時の刃付けによる快適性はなくなってしまうということです。

この部分が大切なところです。

包丁は、いつか必ず砥ぐものなので(砥がずに新品に買い換える人もいますが)、家庭用包丁として作る場合は、だれでも新品時の性能を維持しやすい包丁を作ることも大切です。






以上、洋包丁の刃付けの話でした。


次に、左右非対称の刃付けの包丁に、「利き手」という概念はあるのか?という話です。




●左右非対称の両刃包丁 

両刃でも、左右非対称の刃付けのものが売られています。

刃付けをする砥ぎ職人のクセとして6:4の右寄りの刃付けになることもありますが、利便性を考え、あえて左右非対称の刃付けをしているメーカーもあります。


左右非対称の両刃包丁は、利便性を考えると利き手を選ぶ包丁と言えるのですが、それを記載せず販売しているメーカーが少なくありません。




たとえば6:4の刃付けの包丁があるとします。

世の中は右利きの人が9割なので、9割の人は5:5の完全対象の両刃より楽しく切ることができます。

しかし1割の人は、むしろ悪条件を受け入れることになり、作業効率や楽しさが半減してしまいます。

私は、左利きの人にも、右利きの人同様に「食材を切る楽しさ」を味わっていただきたいので、「6:4の刃付け」の包丁の場合は、「左右兼用ではない」とお伝えしたいです。





以下、利き手があることを伝えている包丁と、そうでない包丁の2つの例を紹介したいと思いますが、お伝えしたいのは、私は包丁を使う側でもあるので、「ユーザーのために」と考える傾向があるということです。

ユーザー寄りの思考のため、包丁を否定的に表現してしまうこともありますが、「なにが良い・なにが悪い」と断定するつもりはありません。

企業との癒着、企業に対する悪意はまったくありませんので、それをふまえて参考にしていただければと思います。





<グレステン>

ひとつめは、左右非対称の両刃で、利き手を指定しているものです。


メーカーは「ホンマ科学株式会社」です。


ブレーキ装置で有名な会社だと思いますが、包丁では「グレステン」というブランドを販売しています。

私が研究のために購入したのは、グレステンの819TMというタイプです。

以下の図のような左右非対称の刃付けで刃離れ効果を高め、さらに右側面にディンプルをつけ、より刃離れ効果を高めています。



刃付けは「両刃」ですが、右側を多く砥いだ左右非対称なので、実際は右利き用です。

ホンマ科学株式会社では、これを「右刃(みぎは?)」と呼び、右利き用として販売しています。

刃付けを左右逆にして、ディンプルを左側につけたものが左利き用として販売されています。





余談ですが、下記の動画でわかるように、刃離れ効果は私が考案した包丁(ユニバーサルエッジ)の方が高く、刀身の構造もシンプルです(グレステン819TMは3番めです)。


せっかく利き手を指定しているのであれば、思い切って完全片刃にした方が、砥ぐのも楽で、より高性能な包丁になると思います。






グレステンのサイトの「良くあるご質問」のページには、砥ぎに関しての単刀直入な回答が印象的でした。

Q2(簡易砥ぎ器ではムリです)やQ4(5:5にすると使いにくくなります)などは、刃付けの本質に迫るもので、「科学」がつく会社らしい回答だと感じました。

http://www.glestain.jp/knife/homma/faq.html







写真は右利き用の819TMです。


刃付けは右側がメインで砥いであります。



右側写真

右側面にディンプルをつけ、刃離れ効果を上げています。





左側写真

左側面にディンプルはありません。






刃付け写真

右寄りのコンベックスグラインドだとわかります。


刃付け拡大図

























では次に、購入する際、確認が必要だと感じた包丁です。



<MAC+a(マックプラスエー)>

「マック株式会社」のMAC+a(マックプラスエー)という包丁です。

マックプラスエーについては、左右非対称の刃付けだと公式に発表されているので、左利き用があるのか疑問になり、メールで問い合わせたことがあります。

メーカーからの回答は、「左右兼用です」というものでした。

楽天の宣伝ページも「左利きにも対応」と書いてありました。



楽天の宣伝ページ

https://item.rakuten.co.jp/e-goods/k_mac_a_s16/


説明には、「刃の右側が丸い曲線になっているため、切った食材を右に押し倒すようになり(原文ママ)」や「左右非対称の刃付け」と書いてありますが、「左利きの方にも対応するので」という一文が不思議でした。

マックプラスエーの刃付けでは、「(薄切りが)まっすぐに切れる」と書いてある部分は、実際は少し右に傾けないとまっすぐに切れません。

左利きの人は、右利きの人が傾ける度合い以上に、左に傾けないと薄切りができない刃付けです。

左利きの人が使っても食材を切ることはできますが、作業効率と楽しさは半減します。

この包丁は私ならもちろん右利き用として販売します。

また、グレステンのホンマ科学株式会社も「右刃」として販売する刃付けだと思います。

※原文ママと書いたのは、「丸い曲線」という表現が不思議に感じたためです





YouTube動画

https://www.youtube.com/watch?v=H1VgeIIPY8U&t=90s


マックプラスエーの動画です。

プロにしては切り方が不安定な印象を受けました。







余談ですが、アウトドア用として左右非対称の刃付けのナイフがありました。


これは新潟の燕三条地区で作られたものだそうです。

図を見ると刃付けの割合は5:5なのですが、右側がコンベックスグラインド、左側がフラットグラインドの非対称です。


こちらは「右利き用です」とはっきり書いてあり、良心的だと感じました。

※ただし砥ぎ直しはけっこう大変です

https://www.makuake.com/project/muthos-homura?utm_source=dis&utm_campaign=muthos-homura&utm_medium=criteo_dym_h







●まとめ

質問:「両刃の包丁は左右兼用と考えていいのですか?」

回答:「左右非対称の砥ぎなら左右兼用とは言えないです」




私が考案した包丁、「ユニバーサルエッジ」は完全片刃なので、右利き用・左利き用があります。

※たとえ「9:1」「8:2」の片刃風両刃包丁だとしても、安定した刃離れや薄切りの感動、砥ぎの簡素化などの面で、完全片刃が最適だという結論になりました



「両刃は左右兼用ですか?」という質問からいろいろなことを書きました。参考になれば嬉しいです。