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砥石は平らな方がよいのですか? 

更新日:6月10日


「砥石は平らな方がよいのですか?」という質問をいただきました。



答えは、

「平らな方がよいですが、どれだけこだわるかによって変わります」

です。



「包丁道(刃物道)」と呼べる領域までこだわるなら「平面」は絶対に必要です。

「切れれば良い」程度なら平らでなくても大丈夫です。

車で例えると、こだわり抜いた1千万円以上の車でなければいけないか、200万円のファミリーカーで「走れば良い」と考えるか、というイメージです。


今回はそんな話を書こうと思います。

以下の見出しで書きます。



◎砥石は平らな方がよいのですか?

◎凹んでいる砥石がある理由

◎どの程度突き詰めるか

◎鋼材の硬さと砥石の減り方

◎砥石の表面を平らにしないことのメリット

◎参考:包丁で紙を切ることの意味

◎参考:バリを取る必要性

◎解決策

◎結論



◎砥石は平らな方がよいのですか?


まず、「砥石」を使って砥ぐことはとても良いことだと思います。

「切れ味」という面で包丁の本来の性能を発揮しやすいからです。

しかし一般家庭で砥石を使う場合、砥ぐ包丁の種類は主に洋包丁になるので、厳密な「平面」についてはこだわる必要がない場合があります。


砥石の平面が重要になるのは、包丁に「裏スキ」がある場合です。

裏スキは和包丁特有の構造なので、和包丁にとって砥石の平面が大切だということです(そもそも洋包丁は砥石がなくても砥げます)。

「家庭で使う砥石が絶対に平らでなければならない」ということはないので、砥石を平らにすることに不安がある方はご安心ください。


弊社では砥石の面を平らにすることをオススメしていますが、それは一般論として、また、弊社は和包丁を含めた様々な包丁を砥ぐ仕事をしているので実際に砥石を平面に保つ必要があるからです。

条件によっては凹んだ砥石を使ってできる作業もあります。


たとえば「包丁道」と呼べるような究極の領域で片刃の刃物を研ぐ人にとっては、砥石の面が平らであることがとても大切な場面があります。

特に木工などに使う鉋(カンナ)の刃は、高い精度が求められるので、砥石が平らであることが重要です。

「和包丁」も、砥石が平らなほど本来の性能を発揮しやすいので、砥石が平らであることが大切です。

逆に言えば、裏スキのない「洋包丁」は、砥石が平らでなくても問題がないということになります。


基本はもちろん「平ら」が理想ですが、それにかけるコストが大切です。

平らにするには、もうひとつ砥石や修正砥石が必要になり、コストや保管場所の問題が出てきます。

ダイヤモンド砥石(レジン・電着)のようにほとんど減らない砥石は平らにするためのコストが削減できるので、ダイヤモンド砥石を買うことも選択肢のひとつです。


上にも書いたように、弊社の場合、お客様からの依頼で和包丁を砥ぐことがあるため、砥石は平らに保つようにしています。

しかしご家庭で自分の洋包丁だけを砥ぐ場合は、その包丁に合わせて凹みができることや、長年の作業で慣れているため、砥石が凹んでいても問題ない場合もあります。

つまり「自分の洋包丁(裏スキのない包丁)を砥ぐだけなら砥石が凹んでいても大丈夫」ということです。

この場合もちろん新品の包丁と同じ刃線を保つことは困難だと思いますが、これも長い年月をかけて徐々に変化した刃線なので、使っている本人は違和感がないことが多く、大きなデメリットにはなりません。

また、平らな砥石を使っても刃線が乱れる場合がほとんどなので、砥石が凹んでいることで刃線が乱れても同じだと判断することもできます。





◎凹んでいる砥石がある理由


凹みのある砥石を修正することがあるのですが、2㎜程度の凹みはよくあり、時々3㎜以上の凹みがある砥石も見かけます。

砥石は平面が理想ですが、同じ包丁を砥ぐだけなら凹んでいても問題なかったため、そのまま使い続けていたということです。

もし砥石が凹んでいたら絶対に砥げないなら、1㎜でも凹んでいる砥石は存在しないはずですが、3㎜も凹んでいる砥石が存在するということは、その条件で砥げる包丁を砥いでいたからです。

つまり、凹んでいる砥石がある理由は「それでも包丁を砥げるから」ということになります。





どの程度突き詰めるか


冒頭に書いたように、包丁を砥ぐ作業は、車やバイクへのこだわりと似たところがあります。

趣味として「上質な走り」にこだわり、コストかける人もいる一方で、生活の中の実用品として「車やバイクは走ればよい」と考える人もいます。


たとえばスポーツ走行にこだわる人は、力のあるエンジンを積んだスポーツカーを買い、軽量化のための部品にこだわり、数百万円かけてチューニングをする人もいます。

天候や走る場所に合わせ、ノーマルタイヤだけでなく、雪用・雨用・サーキット用など、数種類のタイヤを買い、数グラム単位のホイールバランスやサスペンションの厳密なアライメント調整にこだわります。

また、鉄の部品をアルミやチタンに交換したり、シートを軽くしたり、丸ごと外したり、バッテリーの重さにもこだわる人、燃料を半分しか入れない人など、様々な考え方の人がいます。

外見にこだわる人は、ドレスアップのパーツやボディーのコーティングにコストをかけることもあります。


しかし「車は走ればよい」と考える人は、ファミリーカーを買って、人や物を運ぶ道具として使います。

タイヤは1本1万円以下でOK、各部品の素材やエンジンのパワーアップ、車体の軽量化などにはこだわりはなく、「荷物は車に積みっぱなし」ということも少なくありません。

空気圧やホイールバランス、オイルの銘柄なども特に気にせず、洗車も簡単な水洗い程度です。

「高コストで上質な走り」よりも「低コストで実用的かどうか」が大切だからです。


包丁にも同じことが言えます。

「上質な切れ味」にこだわる人もいれば「切れれば良い」と考える人もいます。

家庭で洋包丁を使っていて「包丁はそこそこ切れれば良い」と考える人にとって、砥石が厳密に平面を保っていかどうかは重要ではありません。


仮に前者を「包丁道」、後者を「一般家庭」と表現すると、以下のようなイメージです。

「包丁道」に興味がある人は、多くのコストをかけて「上質な切れ味(Lv10)」を追求し、砥石の厳密な平面の維持や、繊細なバリの取り方などにもこだわります。

一方、「一般家庭」では、コストをかけずに「適度な切れ味(Lv8)」を保ちます。

プロの世界や包丁メーカーの新品時の切れ味レベルは、包丁道と一般家庭の中間と考えてよいと思います。

※レベル8の切れ味についてはコチラ


参考1:

車では、コストをかけて細かな性能のアップにこだわる前に、相応の「運転技術」を身に付けた方が良いという場合もあります。

運転技術を磨かないと、こだわりが活かせない場面が少なくないからです。

包丁についても、スライド切りやスイング切りなど、基本的な「切る技術」や「楽しく切ること」にこだわり、その後、素材や砥石などにこだわる方が「包丁を使う」ということの本質に近いかもしれません。

もちろん包丁を徹底した趣味という位置づけで楽しむ人がいてもよいと思います。



参考2:

車も包丁も、こだわりを持つ人は男性に多いように感じます。

女性は「車はファミリーカー・包丁は万能包丁」のように「実用性」を重視する傾向があると思います。





◎鋼材の硬さと砥石の減り方


柔らかい砥石で硬い刃を砥ぐと、砥石が凹みやすくなります。

また、硬い刃は刃欠けしやすいため、刃欠けを直すために砥ぐことになり、一層砥石が減りやすくなります。

逆に、硬い砥石で柔らかい刃を砥ぐと、砥石はなかなか凹みません。

凹まないので修正もほぼ無用になります。


弊社がオススメしている組み合わせは後者です。

ユニバーサルエッジは、現代の刃物用鋼材としては比較的柔らかめのモリブデンバナジウム鋼の刀身です。

お勧めしている砥石は、レジンダイヤモンドの砥石(セラミックも砥げる硬い砥石)です。

軟らかめの鋼材と硬い砥石の組み合わせ、つまり、砥石が減りにくい組み合わせです。


レジンダイヤモンド砥石は減りにくいため、砥石の層が1.5㎜程度と薄いのですが、ユニバーサルエッジを砥ぐだけなら20年で1㎜程度の凹みだと思います。

自分の家庭用包丁を自分で砥ぐだけなら、1㎜程度の凹みは問題ないと思います(和包丁や鉋の刃は砥げませんが)。





◎砥石の表面を平らにしないことのメリット


世の中に凹んでいる砥石があるということは、砥石の表面を平らにしないことのメリットがあるからです。

弊社では、公式にはもちろん平らにすることをオススメしています。

理由は前述したように、和包丁も砥ぐことがあることと、お客様からご依頼いただく様々な包丁に対応するために、平らな方が都合が良いからです。


では、平らにしないことによるメリットはなにか。

それは、時間の節約が主な理由だと思いますが、他にも砥石の寿命が長くなるメリットがあります。

毎回のように面出し(平らにする作業)をしている砥石より、面出しをしない砥石の方が寿命が長くなります。

面出しの作業は砥石が平らになった瞬間に止められないからです。





◎参考:包丁で紙を切ることの意味


砥いだ後に紙を切ることの意味は、主に、切るときの音とひっかかりなどの情報から、刃先の状態と刃欠けの場所、バリの有無などを知るためです。

また、繊細なバリは紙を切ることで取り除くことができる場合があり、一度目よりも二度目の方が切れ味が滑らかに感じることもあります。

「刃欠け」については、切る食材によっては気にならないこともあり、砥ぐ手間や包丁の寿命なども考慮して刃欠けを放置することも選択肢のひとつです。

ただし刺身の断面など、食材の断面のツヤを意識したい場合は、刃欠けがないことが大切な場合があります。


包丁を砥いだ後、紙がキレイに切れなくても、必ずしも問題があるとは言えません。

紙を切る行為は、包丁研ぎの「過程」であって「目的」ではないからです。





◎参考:バリを取る必要性


砥いだ後の大きなバリは、口の中に入ると違和感になるため取り除く必要があると思います。

また、バリがあると切れ味にも直結し、切りにくさを感じるので、大きめのバリは取り除く必要があります。

目に見えないような小さなバリは、食材を切るときに違和感がない程度なら、切っているうちに取れてしまうので、砥石などで時間をかけて取り除く必要はありません。

目に見えない少量のバリは、食材の中に入っても違和感はなく少量なので身体にも無害です。


バリについては以下を参考に。


刃先のバリを取り除く理由


バリは髪の毛と同じ太さ?_






◎解決策


「一般家庭で自分の万能包丁を砥ぐ・凹みの修正にコストをかけたくない」という前提で書きます。


解決策1:凹みにくい砥石を使う

具体的には「レジンダイヤモンド砥石(焼結ダイヤモンド砥石)」または「電着ダイヤモンド砥石」を使うことで、凹みを防ぐことができます。

電着ダイヤモンド砥石は研削力が徐々に弱くなりますが、凹まない砥石です。


ダイヤモンド砥石については以下を参考に


余談:昔ながらの水に浸す砥石は「管理が面倒・時間がかかる・凹みやすい・割れやすい」などの理由からオススメしません




解決策2:靭性の高い柔らかめの包丁を使う

硬い砥石に対して柔らかめの包丁を砥げば砥石は減りにくいです。

軟らかめの包丁としてHRC硬度57前後のステンレスをオススメします。



解決策3:修正砥石でこまめに平らにする

砥石は平らな方が気持ちが良いと思います。

もし面倒でなければ修正砥石を買うか、もうひとつ砥石を買って共擦りするかしてみてください。

砥石にも様々な種類がありますが、電着ダイヤモンド砥石(1000番前後)を使った修正がオススメです。

厚さ1㎜~2㎜の薄いタイプの電着ダイヤモンド砥石は、アリエクなどのサイトで一枚500円前後で販売されています。

それを平らな場所に上向きに置いてその上に砥石を置き、水を流しながら擦り合わせると砥石が平らになります。

安価で手間もほとんどかからない方法なので、頻繁に作業しても苦になりません。



解決策4:気にしない

砥石が凹んでも、同じ人が同じ包丁を砥ぎ続けている限り、刃が付かないということはありません。

砥石は急に2㎜減るわけではなく、徐々に減るので「慣れ」によってカバーできてしまうと思います。

仮に砥石が5㎜凹んでしまうと違和感があるかもしれませんが、弊社がオススメする砥石はダイヤモンド砥石なので、「ほとんど凹まない」と言えます。






◎結論


砥石は平らな方がよいのかどうか・・・

裏スキがある刃物を研ぐなら平らなほど良いですが、裏スキがない刃物なら、厳密な平面は不要です。

どこまでこだわるかは、砥石を平らに保つためのコストとの兼ね合いだと思います。


家庭用万能包丁は、砥石が平らでなくても包丁としての性能をほぼ発揮できます。

弊社の場合は、和包丁(裏スキがある包丁)をお預かりすることがあるので砥石の面は平らに保つ努力をしています(厳密な平面ではないかもしれませんが)。



ということで、鉋の刃や和包丁を砥ぐ場合は、砥石は平らなほどよい、自宅で洋包丁を砥ぐ場合はあまり気にしなくてよい、という結論になります。



以上、砥石の平面についてでした。

参考になればと思います。






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