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「引き切り」あれこれ ―5種類の引き切り―

更新日:9月16日



「引き切り」について質問をいただきました。

いただいた質問は、キャベツの千切りをするときの引き切りの練習方法についてですが、今回は引き切りの練習方法も含め、引き切り全般について書こうと思います。




◎「引き切り」とは 5種類の引き切りの紹介

◎刺身などの柔らかいものを切るときはなぜ引き切りなのか

◎「引けば必ず断面がキレイに切れる(ツヤが出る)」というわけではない

「手首の引き切り」と「肩の引き切り」の練習方法

和包丁が「引き」洋包丁が「押し」の理由

◎砥ぎキズで想像

◎紙筒切り

◎まとめ



・・・



◎「引き切り」とは 5種類の引き切りの紹介


「引き切り」とは、包丁を引きながら切る切り方で、大きく分けて5種類あります。

描く弧の大小の差はありますが、どの切り方も「円運動」が基本になっていて、包丁が手前側に移動しながら切り終わります。




私の包丁教室では、必要に応じて以下の5種類についてお伝えしています。


1:手首の引き切り


2:肩の引き切り


3:低圧の肩の引き切り


4:切っ先の引き切り1


5:切っ先の引き切り2(例外的な直線運動の引き切り)




1から順に説明します。

紹介する動画は全て引き切りと呼べる切り方です。

刃線のどの部分を使って切っているかイメージしやすいように、動画の下にイラストを添えてみました。

あくまでもイメージなので必ずしも動画と一致しませんが、イラスト中の赤丸が切り始め、青丸が切り終わりです。

どのパターンでも包丁は自分側に動きます。





1:手首の引き切り


手首の関節を中心にした引き切りです。

上から叩いているように見えますが、引き切りの定義に合った切り方です。

少しの量を素早く切りたいに便利です。

主なメリットは、「作業が早いこと・ひじが後ろに出ないこと(狭い厨房でも後ろを通る人にひじが当たらない)」です。

主なデメリットは、「作業の音が大きいこと・厚さが不安定になりやすいこと」です。

モリブデンバナジウムの刃と柔らかいまな板の組み合わせがオススメです。




★手首の引き切りで使う刃線



手首の引き切りについて詳しくは以下を参考に。


手首の引き切り


「手首の引き切り」の動画を見た方のご意見について







2:肩の引き切り


肩の関節を中心にして腕全体を使った円運動で切る方法です。

腕の動きのイメージとしては、陸上競技のリレーをする腕の動きで、バトンの代わりに包丁を持っている状態です(腕を振る範囲はリレーよりだいぶ小さいです)。


肩の引き切りは、主にキャベツを丸ごと千切りにするときの切り方ですが、プロがよく砥いだ包丁の切れ味と重みを使って切る場合がほとんどで、家庭用万能包丁を使う一般家庭の主婦には縁のない切り方かもしれません。


以下の動画は180㎜の家庭用万能包丁で少量を切っているので、なんとなくぎこちない動きです。

「キャベツの千切り・引き切り」で検索すると、包丁の長さと重さを利用した業務レベルの動画がたくさん見つかりますので参考にしてください。





★肩の引き切りで使う刃線 (食材の大きさによって使う長さが変わります)


※プロの包丁が長い理由についてはこちらをご覧ください







3:低圧の肩の引き切り  ※刺身を切るときの「そぎ切り・平造り」の切り方


包丁のアゴから切り始め、丁寧に引きながら切っ先で終わる切り方です。

低圧の肩の引き切りを使う食材の代表的なものが「刺身」だと思います。

「そぎ切り」や「平造り」と呼ばれる切り方で、できる限り刃渡りを長く使って片道で切り、美しい断面を作ります。

動画は「トマト」のくし形切りです。

アゴから切っ先まで、できるだけ長い刃渡りを使って片道で切っています。

その他、「厚みのある柔らかいステーキ」や「ローストビーフ」「こんにゃく」などの食材を切るときも有効な切り方です。





低圧の肩の引き切りで使う刃線 (状況によって使う長さが変わります)


※断面のツヤを出すために、刃渡りを長く使い片道で切る必要がある理由は以下です

大根の薄切りの断面の違い






4:切っ先の引き切り1


よく紹介されている玉ねぎのみじん切りで使う切り方です(ユニバーサルエッジで切る場合は違う切り方です)。

垂直に切ると抵抗が強いため「少し引きながら切る」という方法が一般的です。

※人間の身体的な特徴として、切っ先を使った作業はほとんどの場合「引き切り」と言える動きになります





★切っ先の引き切りで使う刃線




※よく見かける玉ねぎのみじん切りでは上記のように切り始めますが、ユニバーサルエッジを使った玉ねぎのみじん切りは引き切りの行程はありません。

興味がある方は以下の動画を参考に。


インスタグラム


ブログ






5:切っ先の引き切り2(例外的な引き切り)


ハンドルを持ち上げ、切っ先をまな板につけて包丁全体を引く切り方です。

包丁の動きが直線運動になるため「例外的な引き切り」と表現しました。

包丁を寝かすほど切れ味が増します。

※包丁の角度と切れ味の関係についてはこちら





切っ先の引き切り2で使う刃線

(下のイメージ図は、上の動画のような薄い食材を切る場合です。食材の厚さの変化によって使う刃線の長さが変わります)





以上が5種類の引き切りの説明です。


以下に続きます。




◎刺身などの柔らかいものを切るときはなぜ低圧の肩の引き切りなのか


主な理由は以下の3つです。

軟らかいものを切るときは「刃渡りを長く使う」がポイントになります。


1:水平方向に意識を向けやすいから(低圧で切ることができるから)


2:人間の身体的構造が引くのに適しているから


3:押すと最後にハンドルが邪魔だから


備考:砥石で砥ぐから


・・・


1:水平方向に意識を向けやすいから


軟らかいものを切るときの引き切りは、刺身やトマトの切り方に代表されます。

実際は、切断するときに使う刃渡りの長さが同じなら、押しても引いても断面のツヤはほぼ同じです。

しかし人間は、押して切るときは上から下に向けた「上下方向」で力を入れがちで、引いて切るときは、奥から手前の「水平方向」に意識を向けやすくなります。


「押し切り」で上下方向の力を入れると、食材がつぶれやすくなり、食材の形や断面が荒れてしまうため、水平方向に意識を向けやすい「引き切り」をすることで、食材がつぶれにくく、形や断面の状態が良い仕上がりにすることができます。


※もちろん押し切りでも水平方向の移動を意識すればツヤのある断面になります(下で紹介するニンジンの輪切り動画を参考に)





2:人間の身体的構造が引くのに適しているから


軟らかいものを切るときは刃渡りを長く使う必要がありますが、刃渡りを長く使って低圧で切るときは、遠くから手前に向けて包丁を移動した方が楽です。

包丁と腕の重みを利用することで、力を抜いて腕を手前に引き寄せるだけで食材を切ることができるからです。

※野菜などの硬い食材は押した方がコントロールしやすい場面がほとんどです


刺身を切る機会がない人は「トマト・こんにゃく」を引き切りで切ってみると、引いた方がキレイに切りやすいと感じる場合が多いと思います。


また、簡易シャープナーを使うときはアゴから刃を当てて引いて砥ぎますが、そのことからも「刃渡りを長く使うときは引いた方が楽」だとわかります。





3:押すと最後にハンドルが邪魔になるから


押し切りで刃渡りを長く使おうとすると、最後にハンドルや自分の手が邪魔になります。

刺身を切るときは、表面のツヤを出すためにできる限り長い刃渡りを使う必要があるので、押すとスムーズな動きができなくなります。

引くことで切っ先まで有効に刃渡りを使うことができ、切っ先をまな板につけたまま引き抜くことで、食材の切り離れも確保できます。




備考:砥石で砥ぐから

引き切りで使われることが多い和包丁(柳刃・出刃)は、砥石で砥ぐことがほとんどです。

砥石で砥ぐと、引いて切るときに気持ち良く切れる刃先の形になるので、それも柔らかいものを切るときに低圧の肩の引き切りを使う理由のひとつかもしれません。


※和包丁が「引き」洋包丁が「押し」の理由はこちら





参考:

包丁を引くと肩の関節(支点)から先の重量物(腕と包丁)が自分に近づくため、同じものを同じ刃渡りで切るなら、引き切りの方が「切りながら軽くなっていく・楽に切れる」と感じることができるはずです。

「包丁は刃元から切っ先にかけてテーパーがついているから引いて切った方が抵抗が少なく切れる・抵抗が少ないと断面のツヤもキレイだから引いて切る」という考え方がありますが、それは硬いものを切るときに成り立つ考え方かもしれません。

軟らかいものを切るときは、食材が刃の厚みを吸収するので、押しても引いても切れ味や抵抗の数値に大きは差はないと思います。

いずれにしても、切っ先にかけてのテーパーの度合いによる引き切りのメリットについては、柔らかい食材を切る作業に大きな差はないと思います。





◎「引けば必ず断面がキレイに切れる(ツヤが出る)」というわけではない


刺身を切るような「低圧の肩の引き切り」は断面がキレイになります。

しかし、引けば必ず断面がキレイに切れるわけではありません。

また、「押し切りは引き切りよりキレイに切れない」というわけでもありません。

押しても引いても、結局はどれだけ低圧で切っているか、つまりどれだけ刃渡りを長く使って切っているかがポイントになるからです。

以下の動画は、前半が押し切り、後半が引き切りですが、押し切りでは刃渡りを長く使い、引き切りではあえて刃渡りを短く使って切っています。




動画前半の押し切りは、私の包丁教室では「低圧スライド切り」と呼ぶものです。

切ったニンジンは以下の写真の「押し切り低圧」の断面です。

後半の引き切りが「引き切り高圧」です。

引いて切っていますが、使う刃渡りが短いので、「押し切り低圧」と比較すると断面が荒れていることがわかります。



この動画と写真からわかることは、「引き切りをすると必ず断面がキレイになるというわけではなく、刃渡りを長く使うと断面がキレイになる」ということです。

そして刃渡りを長く使いやすい切り方が、一般的には「低圧の肩の引き切り」なので、「引き切り」をすると断面をキレイにしやすいということです。



根本的な話になりますが、断面のツヤについて補足です。

切れ味の良い包丁で切ると、切った食材の断面にツヤが出ますが、「切った食材の断面のツヤがあればよい」というわけではないと思います。

ニンジンで言えば、ツヤがあるほど香りが出ません。

そのため、口に含んだ瞬間にニンジンだとわかるのはツヤがない方です。

ニンジンが嫌いな人にとっては、ツヤがある切り方の方がありがたいかもしれませんし、好きな人にとっては表面がザラザラで香りが強い方が嬉しいかもしれません。


ザラザラの方が断面の表面積が大きいので、「味が染み込みやすい・ドレッシングの乗りが良い」などのメリットがあると思います。

もちろんより薄く、より細く切れば、ドレッシングの乗りは良くなります。


反対に、薄切りや千切りなどの生野菜であれば、ツヤがあった方がキラキラしていておいしそうに見えると思います。


切った食材の断面がキレイなほど包丁の切れ味が良いことの証明になりますが、それが良いかどうか、美味しいかどうかは、食べる人が決めます。



※包丁の切れ味と食材の味の関係についてはこちら






◎「手首の引き切り」と「肩の引き切り」の練習方法


※「低圧の肩の引き切り・切っ先の引き切り1・切っ先の引き切り2」の練習方法は省略します。


「手首の引き切り」と「肩の引き切り」は、包丁の重さを利用してリズムに乗って切る方法です。


以下、練習方法を簡単に紹介します。


モリブデンバナジウムの刀身のシェフナイフと、ポリエチレンのまな板の組み合わせがオススメです。

※その他の組み合わせだと、「刃の硬度・重心位置・まな板の硬さ」のバランスによっては動画と同じようにできない場合があります。


「手首の引き切り」は、動かしてよいのは手首の関節だけです(厳密には他の関節も微妙に動きます。また、指の関節だけ動かして切る「指の引き切り」もあります)。


「肩の引き切り」は、動かしてよいのは肩の関節だけです(厳密には他の関節も微妙に動きます。また、ひじの関節だけ動かして切るひじの引き切りもあります)。


これらは目的によっては効率が良い切り方なのですが、ある程度の練習が必要です。

以下、練習方法です。



<手首の引き切りの練習方法>


1:中指の第一関節(猫の手で包丁に当たる関節)に絆創膏を貼って表面に油を塗ります。


2:「素振り」をします。

「手首の引き切り」の練習なら、左手は使わず右手だけで手首の引き切りの動きをします。

食材は切りません。

ホームポジションに構えて、上に紹介した動画のように動かしてみてください。

包丁を1秒で6往復前後の動きにすると安定したリズムで動かしやすく切りやすいと思います。



3:動画のように切る

素振りが安定してできるようになったら切っていきます。

意識的に食材を切ろうとするとケガをしやすいので、あくまでも「動き」を重視し、「その動きの中に食材があって、たまたま切れる」というイメージで切ってください。

生徒さんも「素振り」は上手にできるのですが、切ろうとした瞬間からフォームがおかしくなってしまう場合がほとんどです。

切ろうとせずフォーム重視で練習してみてください。

コツをつかむと10分の練習でできるようになります。


以下の研修生は10回のレッスンの最後の方で練習し、「手首の引き切り」ができるようになりました。

↓上でも紹介した「手首の引き切り」についての記事です。




<肩の引き切りの練習方法>


「肩の引き切り」の練習方法も、手首の引き切りと基本的に同じですが、一般家庭の包丁では小さいので、食材の高さや奥行きは小さめがいいと思います。

私は大きな包丁を使わないので、普段「肩の引き切り」は使いません。

あえて家庭用万能包丁で切ろうとすると、上に紹介した動画のような少しぎこちない切り方になります。


「キャベツの千切り・引き切り」で検索してみると、プロはみんな大きな包丁を使っていることがわかると思います(しかも切れ味も良いです)。

大きくて切れ味の良い包丁を使うと、業務レベルの肩の引き切りができるようになります。

注意点としては、素振りが安定するまで左手を添えないことです。

また、左手を添えるときは、包丁に当たる中指の第一関節(人差し指を使う人は人差し指に・第二関節を使う人は第二関節に)に必ず絆創膏を貼ってください。

とにかくケガに注意して慎重に練習することをお勧めします。




◎まとめ


「引き切り」にも手首や肩を使う切り方、アゴや切っ先を使う切り方などいろいろな種類があることが伝わったと思います。


手首の引き切りは一般家庭でも使う場面はありますが、キャベツの千切りの時に肩の引き切りをするには大きめの包丁が必要になります。

一般家庭では、キャベツを一枚一枚剥がして「低圧スライド切り(押し切り)」で切る方が効率よくキレイに切れると思います。


※家庭用万能包丁を使った各食材の切り方については以下を参考に。



最後に「手首の引き切り」で終わります。

※音が出ます




なにかひとつでも参考になれば嬉しいです。



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