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包丁の切っ先側に反り(ソリ)がある理由

更新日:3月3日


「包丁にはなぜソリがあるんですか?」という質問をいただきました。

多くの包丁の切っ先側に「ソリ」があるのですが、今回はその理由について書きます。

※ソリがない包丁もあります

※映像にある和包丁の刀身は「いただいたままの状態」で使っています



ソリがある理由についてのキーワードは以下です。


◎切れ味の向上


◎利便性の向上


◎重心位置


◎余談:刀(かたな)のソリの意味






◎切れ味の向上


ソリは切れ味の向上のためにありますが、切れ味の向上にも大きく分けて3種類あります。

「包丁を引くとき」「包丁を押すとき」「包丁をスイングさせるとき」です。



以下に説明します。



1:包丁を引くときの切れ味の向上


包丁を引く作業は、切っ先をまな板につけたまま引くときや、刺身などのそぎ切りのときに使います。

ソリは、包丁の切っ先をつけたまま引きながら切るときに、包丁の角度が変わっても切れ味を落とさない効果があります。




たとえば下の写真のようにカッターで紙を切るとき、刃を立てると切れ味が悪くなり、刃を寝かすほど切れ味が良くなる経験をしたことがあると思います。



以下はカッターで切った紙です。

左から徐々に寝かせて切っています。

寝かせた方が切り口が滑らか(切れ味が良い)とわかります。












カッターを立てて切ると切れ味が悪い













寝かせて切ると切れ味が良い












包丁も寝かせて切るほど切れ味が良くなりますが、ソリがないと、刃の角度が包丁の見かけの角度と同じになり、ハンドルを持ち上げるほど切れ味が悪くなります。

切っ先側にソリがあることで、たとえハンドルを持ち上げていても刃の角度を鋭角に保つことができ、切れ味を維持できます。



下図は、上はソリがない包丁、下がソリのある包丁です。













ソリがない包丁は、包丁の見かけの角度が刃の角度と同じです。

ソリがあると、包丁の見かけの角度よりも刃の角度が鋭角になります。




下図は、ソリがない包丁(上)とソリがある包丁(下)の刃の角度の比較です。

見かけの角度が同じでも刃の角度が違うことがわかります。













切っ先側にソリがあることで、ハンドルを持ち上げても刃線は鋭角な状態を保つことができ、鋭い切れ味を維持することができます。

そして切れ味の良さは、切った食材にツヤを生み出し、確実な切り離れに貢献し、作業効率も上がります。

たとえば、引きながら切る作業に使う「柳刃包丁」にソリがある主な理由がこれです。

刺身を切るとき、最後にハンドルを持ち上げながら切っても鋭い切れ味が維持できます。



包丁の角度による切れ味についてはコチラ



※「薄刃包丁」は、切っ先側にほとんどソリがないので、包丁を引きながら切るときに切れ味が落ちます。

そのため刃をまな板と並行にして押しながら切る「スライド切り」がメインになります。


薄刃包丁の切れ味が良い理由はコチラ





2:包丁を押すときの切れ味の向上


料理では、引いて切るだけでなく、押して切る方が便利な場合があります。

特に洋食の世界では、押しながらスライドさせる「スライドスイング切り」がメインです。

「薄刃包丁」でスライドスイング切りをしようとしても、スムーズな動きができず、極端な場合は切っ先がまな板に刺さってしまいます。



ソリがないと、極端な場合は切っ先がまな板に刺さります

また、「スライドスイング切り」の動きがぎこちなくなります



ソリがあればスライドスイング切り動きがスムーズです





3:包丁をスイングさせるときの切れ味の向上


2つの意味があります。


ソリがあれば、切っ先をまな板につけたままハンドルを持ち上げ、ハンドルを下ろして切る「スイング切り」をすることができます。

スイング切りは、玉ねぎのみじん切りの最終段階でさらに細かく切ろうとするときに、まな板の上で包丁を振り子のように揺らす切り方です。


切っ先側にソリがあることで、まな板に対して刃先が「点」であたり、切れ味が増します。

仮に、ソリがまったくない包丁では食材を「線」で切ることになります。

アゴがまな板に着くまで食材が切れない状態になり、「ただ食材が潰れるだけ・切り離れが悪い」などのデメリットがあります。



ソリがあるとスイング切りが楽です




ソリがない包丁は、ソリがある包丁と同じ動きでは食材を切ることができません。

切るためには包丁を最後まで寝かす必要があることと、力も必要になり作業性が悪いです。





もうひとつは、下図のように切っ先側を使って硬い食材を半分に切るような作業で、軽い力で安全に切るためです。

大根、玉ねぎ、リンゴなどを半分に切る作業で、切っ先側で包丁を揺らす「スイング切り」をしたとき、ソリがあれば「点の移動」によって食材を切ることができます。

ソリがある包丁でスイング切りをすると包丁が滑らかに動きやすく、急な動きを抑制しながら安全に切ることができます。

※硬い食材をソリのない包丁で切ると、「包丁が急に動き急に止まる」という動きをしやすくコントロールしにくいです。



ソリがあると点で切る(滑らか)。

ソリがないと線で切る(動きがぎこちない)。
























上記をまとめると、ソリがある理由は「楽に、美しく食材を切るため」と言えます。





◎利便性の向上


主に2つの意味があります。


1:細かい作業がしやすい

ソリがあると切っ先側の刃幅が細くなるので、ブロッコリーなどの房分けがやりやすくなります。

また、玉ねぎやトマトの芯を取り除くときや、高さのない食材を目で確認しながら切ることもできます。



2:食材の中で刃の向きをコントロールしやすい

ソリがあると切っ先側の刃幅が細くなるので、食材の中での自由度が増えます。

くし形切りにしたメロンやパイナップルの身と皮を分けるときなどに便利です。






◎重心位置


同じ刃渡りの場合、ソリがある包丁とない包丁では、ソリがある包丁の方が切っ先側が軽いため、重心位置がハンドル寄りになります。

多くの場面で、重心位置がハンドルに近い方が、コントロール性や疲労面などで優れています。





◎余談:刀(かたな)のソリの意味


余談ですが、刀(かたな)にもソリがあります。

しかし包丁は峰に対して刃線が反っていますが、刀は刀身そのものが反っています。

刀の刀身そのものが反っている理由はいろいろあり、時代ごとに目的に応じて変化してきましたが、主な理由は以下です。


・鍛錬中に刀身が曲がってしまう現象を利用し、職人が適度な曲がりを生み出した。


・ソリがあると「突く」のではなく「切る」ことが得意になる。


・鞘(さや)の抜き差しがしやすい。

刀の抜き差しは、主に「肩の関節」を中心にした円運動で行うため、肩の関節を中心にした半径600㎜ほどの円運動になります。

極論すれば、直径1200㎜の半円の弧の形をした刀(刃渡り1800㎜)なら、600㎜の腕の長さでも抜くことができます。

しかし1800㎜の刃渡りを持つ直線の刀は、600㎜の腕の長さでは抜くことができません。

実際の刀は、単純な円の一部ではなく、抜き差ししやすく、突きの動きもできるような形です。


※包丁の刀身が反っていると峰を使った食材の移動がしにくくなるデメリットがあるので、包丁の峰は直線的な方が実用的です。





以上、包丁の切っ先側のソリの意味についてでした。

包丁は、切っ先側にソリがあった方がいろいろと便利だとわかっていただけたかと思います。



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