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切り方と切れ味の関係 ―和包丁の方が切れ味が良い理由 詳細編 後編―

更新日:3月3日



<詳細編 後編>




◎万能ねぎの小口切りで見る切れ味


以下は、万能ねぎの小口切りの写真です。

切り口の仕上がりに注目してみてください。


1:薄刃包丁スライド切り





2:薄刃包丁スイング切り





3:洋包丁スライド切り



1と2は両方とも同じ薄刃包丁で切ったものですが、切り口の表情が違います。

1がスライド切り、2がスイング切りです。

もちろんスライド切りをした1の方が切り口がキレイです。

また、3の写真は洋包丁でスライド切りで切ったものですが、切り口の表情は薄刃包丁でスライド切りをした1の写真と同じようにキレイだとわかります。

つまり、薄刃包丁でも洋包丁でも切れ味が良いことになります。





そして次に、さらに踏み込んだ実験の写真です。

下の3枚は、どの写真も写真内の左側が洋包丁、右側が薄刃包丁で切った万能ねぎの切り口です。

比較すると、写真の左側は切り口がキレイですが、右側は切り口の細胞が潰れてしまい、黒くにじんでいます。


右側の切り口は「揮発成分が出る・断面がザラザラ・栄養素が逃げる」などと言われ、「切れ味が悪い包丁で切った」と言われるものです。


写真左側の断面は全て洋包丁で切ったものですから、この写真だけ見れば洋包丁の方が切れ味が良いことになりますが、実際は洋包丁の切れ味が良いのではなく、「薄刃包丁も切れ味が良いが、スライド切りとスイング切りの差が出た」ということです。










◎クイズ


では包丁ユーザーのみなさんにクイズです。

これに正解できたら、このブログの内容が理解できています。


クイズ:

「切り方」によって「切れ味(断面のツヤ・仕上がり)」が変わることはわかりました。

では、AとBの包丁があった場合、実演販売でAを売りたいとしたら、みなさんはどのような実演をしてAの切れ味をアピールしますか?




答え:

「Aでスライド切りをして、Bでスイング切りをする」

です。



こうすることで、Aで切った食材の断面はツヤが出て、Bで切った食材の断面はザラザラになります。

Aの切れ味が良いということになり、多くのお客様はAを買うと思います。

しかし、私はこのような実演方法に違和感があります。

YouTubeなどの実演動画を見ると、実際に上記のように切り方を変えて、売りたい包丁の切れ味をアピールしている人もいることがわかります。

また、その実演を見て感動している人も多くいますが、AとBの包丁を入れ替えても同じ結果になる場合がほとんどです。

また、単独で売る場合は、標準の刃付けではなく、耐久性を犠牲にした鋭利な刃付けで実演することもあるようです。

私はこの類の実演はユーザーのためではないと感じているため、好意的に見ることができません。

ユーザーのみなさんには、できるだけ本当のことを知っていただきたいと思っています。








◎切れ味と同じように大切な「切り方」


包丁は、新品のときの切れ味よりも、その切れ味を長く維持できるかどうか、つまり「砥ぎやすさ」が大切です。

コンベックスや左右非対称の複雑な刃付けの包丁ほど家庭では砥ぎにくく、宣伝通りの性能を維持できなくなる場合がほとんどです。


また、たとえ新品時の切れ味が素晴らしくても、「スライド切り」をしなければ本来の切れ味を活かすことができません。

つまり、切れ味を追求するのと同時に、その切れ味を活かすための「切り方」を追求する必要があるということです。

切れ味の追求は、切り方の追求でもあり、本当の意味での包丁の切れ味は、「砥ぎやすさ」と「切り方」が一体になることで実現されるものだと思います。




ではここでもう一度確認です。


薄刃包丁の切れ味が良いと言われる第一の理由は「研ぎ角が鋭いから」です。

そしてもうひとつの理由は、洋包丁がスイング切りをメインに使うのに対し、薄刃包丁はスライド切りをメインに使うからです。

スライド切りはスイング切りよりツヤが出る切り方です。

薄刃包丁は刃線が直線的でスライド切りしか使えないため、必然的に食材の断面にツヤが出るということになります。

ただし、刃線が直線的ということは、スイング切りが使えないことやアゴを上げて切っ先を引いて切るときの切れ味が劣ることなど、「万能性」という面で不利なため、薄刃包丁を家庭用万能包丁として使うことはできません(柳刃や出刃が必要になります)。




◎洋包丁でスライド切りをしない理由


食材の断面のツヤは、スライド切りをすることでキレイにできるのですが、洋包丁でスライド切りをしない人は少なくありません。


その理由は、洋包丁の「刃線の形」にあります。


洋包丁は刃線が曲線的で、まな板に対して刃先が点で触れるため、奥行きのある食材に対してスライド切りをすると、食材の切り離れが悪くなります。

そのため確実に切り離すためにスイング系の動作が必要になります。



図1:曲線的な刃線の洋包丁




また、洋包丁は簡易シャープナーや砥ぎ棒で研ぐことも多く、アゴ寄りの刃線部分がへこんでしまうため、切っ先側半分のそりを使って食材を切ろうとし、やはりスイング切りになってしまいます。


図2:簡易シャープナーや研ぎ棒で砥いだ洋包丁


さらに、「調理師専門学校で教えてもらったから」という理由で、直線的な刃線を持っている洋包丁でもスイング切りしかしない人もいます。

その他スイング切りのメリットやデメリットを考えず、「プロっぽくてカッコイイから」という理由でスイング切りをしている人もいるようです。

実際は「洋包丁は直線的な美しい刃線を持っていないからスライド切りができない」というのが一番の理由になるかもしれません。

プロの場合、長いサイズを使うため多くの食材にスイング切りで対応できてしまうということもあります。

さらに、プロ用の包丁は重いのでスライド切りが疲れるということや、スライド切りは「トントントン」という音が気になるというのも理由のひとつかもしれません。



一般家庭用の洋包丁は軽いので、直線的な刃線があればスライド切りが苦になりません。

実際、市販の家庭用洋包丁の中にも、スライド切りを意識して直線的な刃線を取り込んでいるものもあります。

もちろんユニバーサルエッジも下図(下側)のようにスライド切りができる刃線です。




薄刃包丁(上)と、刃元側に直線部分がある洋包丁(下)







◎私の実演販売

実演の話が出たので、最後に私の実演販売について書きたいと思います。 私の実演販売の主な目的は、包丁を売ることだけでなく、「包丁の本当のこと」を知っていただくことです。

お客様には、本当のことを知っていただき、納得して包丁を買っていただきたいからです。


私は、自分が修行の場としている飲食業界で、お客様の声からエネルギーをもらっています。

お帰りのとき「おいしかったです!」という声をいただくと、とても嬉しいです。


包丁の実演販売でも同じ経験をしています。

誠実に仕事をして、「すごーい!」「私もやってみたーい!」「たのしいー!」などの声をいただくと、その言葉を素直に信じることができ、私も本当に楽しくなって、ずっと切っていたくなります。


この充実感は、「私自身が誠実に仕事をしているか」にかかっています。

そのため、お客様のご希望次第では、両刃の包丁をオススメすることもあります。

ただ、多くの包丁ユーザーが望んでいるのはユニバーサルエッジの「刃離れ・砥ぎやすさ・汎用性」ということは、この10年で確信しているので、これからも実演を通して伝えていこうと思っています。


実演販売の風景 とても楽しい瞬間です








「詳細編 後編」は以上です。

最後まで読んでいただききありがとうございました。




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