切り方と切れ味の関係について読んだ方から、「切っ先を使った引き切りでは、なぜ薄刃包丁より洋包丁の方が切れ味が良いのですか?」という質問をいただきました。
様々な条件があり一概に言えないのですが、簡単に説明すると、洋包丁には「そり」があるからというのが主な理由です。
「そり」があると、ハンドルを持ち上げても刃線とまな板の角度を鋭角に保つことができます。
包丁の切れ味は、包丁が寝ているほど(まな板に対して平行に近いほど)増すため、そりがある洋包丁の方が切れ味が良いということになります。
写真は、同じカッターで紙を切ったものです。
一番左は、カッターをできるだけ立てて切ったものです、右になるほどカッターを寝かせて切り、一番右が一番寝かせて切っています。
右になるほどカッターの刃が前後方向でカッティングマットと紙に埋まるため、切れ味だけでなく直進性も良くなり、直線的でキレイな切り口が生まれます。
切っていて気持ち良いのはもちろん一番右です。
同じカッターでも角度次第で切れ方が変わります
立てて切った時の拡大写真(切り口が荒れる)
寝かせて切ったときの拡大写真(切り口がなめらか)
ということで、同じ刃物で切っ先の引き切りをするなら、角度がまな板に対して水平に近いほど切り口がキレイに仕上がります。
では包丁の話に戻ります。
以下の図は、薄刃包丁と洋包丁で「切っ先を使った引き切り」をするときの概念図です。
切っ先を使った引き切りは、ハンドルを持ち上げて包丁を引きます。
薄刃包丁は峰と刃線がほぼ平行なので、ハンドルを持ち上げたときにできるまな板と刃線の角度(黒)が、包丁の見かけの角度(緑)とほぼ同じになります。
洋包丁には「そり」があるので、ハンドルを持ち上げたときにできるまな板と刃線の角度(黒)が、包丁の見かけの角度(緑)より小さくなります。
実際の写真です
洋包丁はハンドルを持ち上げてもまな板との角度が薄刃包丁より鋭角なことがわかります。
実験レベルで極論すると、薄刃包丁はハンドルを直角に立てれば刃線もほぼ直角になりますが、洋包丁は直角よりも狭い角度になり、薄刃包丁より切れ味を発揮することができます。
下図緑線が「見かけの角度」で、和包丁も洋包丁も直角です。
そして切っ先部分の拡大図にある黒線が、実際のまな板と刃線の角度です。
薄刃包丁
洋包丁
洋包丁は、ハンドルを上げていき切っ先がまな板に触れるまでは、まな板と刃線の接点は限りなく0度に近いことになります。
そのため「そり」の度合いの強い洋包丁なら、直角に立てたまま引いても薄い食材を切ることができます(切りにくいため実務レベルでやる人はほとんどいないと思います)。
薄刃包丁は切り刃の研ぎ角が鋭角なのですが、ここ数回の投稿で書いたように、切れ味は「砥ぎ角の鋭さ」よりも「切り方」の方が大きく影響する場合が多く、切っ先を使った引き切りでは、薄刃包丁より洋包丁の方が切れ味が良くなる傾向です(もちろん刃先の仕上げがしっかりできている前提です)。
◎細かい話
これは要素としては影響が小さいですが、包丁の「長さ」も影響します。
短い包丁はハンドルを持ち上げると長い包丁と比べて角度がつきやすくなり、切れ味が落ちます。
たとえば刃渡りが異なる包丁を下図のように持ち上げると、持ち上げる高さ(赤のライン)が同じなら、刃渡りが長い包丁の方が、切っ先を使った引き切りの時の切れ味は良くなります。
また、包丁を使う人の身長や、まな板の高さによっても包丁の角度が変わるので、これらの条件の違いでも切れ味に微妙な影響が出ると言えるかもしれません。
身長が高い人が、薄刃包丁を使い、低い位置にあるまな板で切っ先を使った引き切りをすると切れ味が悪くなり、身長の低い人が、洋包丁を使い、高い位置にあるまな板で切っ先を使った引き切りをすると切れ味が良くなると言えます。
◎まとめ
「切っ先を使った引き切りでは、なぜ薄刃包丁より洋包丁の方が切れ味が良いのですか?」の答えは、「洋包丁には ”そり“ があるから」です。
「そり」があるとハンドルを持ち上げても鋭い切れ味を維持しやすく、切っ先を使った引き切りでは薄刃包丁よりも洋包丁の方が切れ味が良い場面が多いということです。