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切り方と切れ味の関係 ―和包丁の方が切れ味が良い理由 詳細編 前編―

更新日:1月22日



今回は、「切り方と切れ味の関係 ―和包丁の方が切れ味が良い理由 詳細編」の前編です。

※編集していたところ長くなったので、前編と後編に分けました(笑)




「和包丁は切れ味が良い」と言われることがありますが、和包丁(主に薄刃包丁)と洋包丁(主に牛刀)を比較して、薄刃包丁の方が切れ味が良いと言われる理由について書きます。


はじめにクイズです。

写真はにんじんの輪切りです。

4枚のうち「切れ味が良い包丁で切った」と言えるものが2枚あります。

何番と何番でしょうか。

答えは後述しますので、以下序文、そして本題と読み進めてください。







◎序文:切れ味を決める4つの要素


包丁の「切れ味」を生み出す要素にはいろいろありますが、主に「1:刃先の仕上げ方」、「2:砥ぎ角」、「3:刀身の厚さ」、「4:刀身の断面の形」の4つの組み合わせによって決まります。


たとえば、包丁を動かした瞬間にトマトの皮が切れるのは、「1:刃先の仕上げ方」にかかっています。

たとえ砥ぎ角が鋭く、刀身の厚さが1㎜というごく薄い包丁でも、刃先が丸かったらトマトの皮は切れません。

刃先が鋭く仕上げられているほど食材に触れた瞬間の切れ味が良いと感じます。

「2:砥ぎ角」については、砥ぎ角が鋭いと初期の切り込み抵抗が軽くなり、鈍角な研ぎ角と比較して切れ味が良いと感じます。

大根や人参などの硬い食材に対して包丁の刀身が半分ほど入ったあと、そこから先が重くなるのは、「3:刀身の厚さ」だけでなく、「4:刀身の断面の形」にも影響されます。

刀身が薄くても、フラットグラインドの刀身は、硬いものを切った時に左右からの強い摩擦を受けて包丁の「抜け」が悪くなります(コンベックスグラインドで抜けの悪さは軽減されます)。


肉などの柔らかい食材は、「1:刃先の仕上げ方」が鋭く仕上がっていれば、肉が刃の厚さを吸収するので、「2:砥ぎ角」や「3:刀身の厚さ」、「4:刀身の断面の形」にほぼ影響されず切ることができます(両面ディンプル加工の包丁なら、大きな肉を切るときの肉の貼りつき摩擦を軽減できます)。


上記4つの要素の組み合わせはほぼ無数にあり、切った本人が切れ味の良し悪しを判断します。






◎切れ味を示す食材の表情


そしてもうひとつ、包丁の切れ味のチェックに「食材の表情」を確認する方法があります。

実際、切った本人以外が切れ味を判断する場合、「食材の表情」を見る方法が有効です。

食材の表情の中でも、特に切れ味の手掛かりになるのが、「断面のツヤ」です。

断面にツヤがあるほど「切れ味が良い包丁で切った」と判断されます。

そのため切れ味をアピールする宣伝には「断面のツヤが違う・ツヤがあるとおいしくなる」などの言葉がよく見られます。






◎和包丁の切れ味が良い理由


ではここから本題です。


「薄刃包丁」と「洋包丁」を比較したとき、概して薄刃包丁の方が切れ味が良いと言われる傾向にあります。


主な理由は「片刃による砥ぎ角の鋭さ」です。

特に薄刃包丁は、「薄刃」という名前のように砥ぎ角が10度以下で砥がれることが多く、30度前後で砥がれる洋包丁よりもかなり鋭く砥いであるため、砥ぎ角の鋭さによる切れ味が良いことは想像できます。


また、薄刃包丁を使うのはプロが多く、刃線と刃先がキレイに仕上がる「砥石」で研ぐ傾向がありますが、洋包丁を使う人は、刃線と刃先が荒れてしまう「簡易シャープナー」で砥ぐ傾向があるため、和包丁の方が切れ味が良いという理由もあると思います。

さらに、ステンレス素材の性能が良くなった現在でも、「ハガネは切れ味が良い、ステンレスは切れ味が悪い」というイメージが残っています。

高性能のステンレスの登場で、ハガネ製の和包丁がアピールできるものが「切れ味」しかなくなってしまったということも言えそうです。


このような理由で、薄刃包丁の切れ味が良いと言われることがありますが、実務レベルで考えると、砥ぎ角などの理由よりもっと大切な「もうひとつの理由」があります。


それが「刃線」です。

以下に続きます。





◎和包丁の切れ味が良いもうひとつの理由


薄刃包丁の刃線は「直線的」です。

そして洋包丁の刃線は「曲線的」です。

この刃線の違いが、切れ味の良さを示す「断面のツヤ」に差を生み出します。

薄刃包丁は刃線が直線的なため、包丁を前に押し出すときに、基本的に1種類の切り方しかできません。

その切り方が、「スライド切り」です。

スライド切りは、「押し切り・突き切り」などと呼ばれることがある切り方ですが、「和洋東西(和食・洋食・関東・関西)」で名称が統一されていないため、私の包丁レッスンでは「スライド切り」と呼んでいます。


以下、4つの切り方の動画です。





下図は、上が薄刃包丁によるスライド切り、下が洋包丁によるスイング切りです。



上のスライド系の切り方は、包丁全体を持ち上げ、峰の角度が変わらないまま切る直線運動、下のスイング系の切り方は、切っ先をまな板につけたままハンドルの上下で切る円運動が基本です。 そして、スライド切りの方が、食材の断面にツヤが出ます。


※純粋な「スイング切り」は、みじん切りの最終工程で使うことが多いです。

※厳密に言えば洋包丁のほとんどは「スライドスイング切り」を使います。




実際の薄刃包丁の刃線は完全な直線ということは少なく、私の感覚では、R2000(半径2mの円の一部)以上の緩やかな曲線にして食材の切り離れを確保しやすい刃線になっていることが多いですが、ここでは説明がしやすいように、「刃線が完全な直線」として考えてみます。

また、洋包丁の刃線についても、やはり説明しやすいように「刃線が曲線だけ」として考えてみます。




下図はとても簡単に表現したものですが。、上が薄刃包丁、下が洋包丁です。





刃線が直線の薄刃包丁を使うと、まな板の上で食材を切るときのフォームが、基本的に「スライド切り」の1種類しか選べなくなります。

一方刃線が曲線だけの洋包丁の場合、切り離れを確保するために、洋食の世界でよく見られる「スイング系(主にスライドスイング切り)」の切り方しか使えなくなります。



食材の断面は、仮に同じ包丁で切った場合、スライド切りの方がスイング切りよりもツヤが出ます。

これが、切り方によるツヤの差です。

「切り方の違いによるツヤの差」は、「砥ぎ角の違いによるツヤの差」よりも大きく、これが実務レベルでとても大切なことだと言えます。






◎クイズの答え


冒頭のクイズの答えは①と③です。

そして、1と2が薄刃包丁で切ったものです。

1がスライド切り、2がスイング切りです。

3と4が洋包丁で切ったものです。

3がスライド切り、4がスイング切りです。






実験レベルでは、薄刃包丁も洋包丁も食材の断面に差がないことがわかります。

しかし実務レベルでは、薄刃包丁は1の断面、洋包丁は4の断面になる場合が多くなり、「和包丁の切れ味は良い」と言われることになります。



参考

※実際の包丁の刃線は、薄刃包丁にも少しの曲線、洋包丁にも少しの直線の要素が入っています

※刃線の形や食材の大きさ次第では洋包丁でスライド切りをしている人もいます

※洋包丁でもスライド切りを使い断面のツヤをコントロールできます

※薄刃包丁の直線部分と洋包丁の曲線部分を取り入れた包丁と言えるのが「三徳包丁」ですが、牛刀より汎用性が劣るので現在は三徳包丁の切っ先側を延長した形の牛刀が主流になりつつあります

※ユニバーサルエッジは、薄刃包丁と三徳包丁と牛刀の長所を取り入れた包丁です


前編は以上です。

後編は、「万能ねぎの小口切り」の断面が登場します。


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