パン切り包丁がある理由 ―シェフナイフでパンは切れますか?―
- katabahocho
- 11 時間前
- 読了時間: 6分
「シェフナイフでパンは切れますか?」という質問をいただくことがあります。
今回は、その答えと、パン切り包丁がある理由についてです。
◎シェフナイフでパンは切れますか?
はい(条件によります)。
「シェフナイフでサンドイッチを切る動画」に代表されるように、シェフナイフでもパンを切ることができます。
シェフナイフは刃渡りが180㎜以上あるものが多いので、刃渡り的にもパン切りに対応できます。
パンを切るなら全体としてパン切り包丁の方が楽に切れますが、条件によっては、シェフナイフで切った方がパンくずも少なく、断面も美しく仕上がる場合もあります。
ただし、「焼きたてパン」「フランスパン」など「表面が乾いていて硬いパン」や、逆に「特別な柔らかさ」が特徴のパンは、気持ち良く切れない場合が多いです。
◎シェフナイフでパンが切りにくい条件
シェフナイフで切りにくいパンの条件は、「焼きたてなどで表面が硬いパン」や、逆に「表面も中もとても軟らかいパン」です。
その理由は、硬いパンの場合、シェフナイフの刃先がパンの表面を滑ってしまうからです。
また、「生○○パン」など、とても軟らかいパンが切りにくい理由は、パンが包丁の刃線に沿うように変形してしまうことや、パンの水分が多いため刀身につきやすいこと、シェフナイフの刀幅がパン切り包丁より長いこと(面積が大きいこと)などにより、包丁とパンとの摩擦が増えるからです。
シェフナイフがパン切り包丁より重いことも理由のひとつと言えるかもしれません。
重い包丁は下向きの圧力がかかりやすく、パンに対して下向きの力が強くなってしまう(切れる前につぶれてしまう)ことも切りにくい理由と言えます。
◎パン切り包丁がある理由
パン切り包丁があるのは、上にも書いたように、パンは「硬いほど」そして「柔らかいほど」シェフナイフで切りにくくなるからです。
パン切り包丁は、シェフナイフで対応できない範囲を補う役割として存在すると考えるとよいかもしれません。
「パンの表面の硬さ・全体の柔らかさ・全体の高さ」など細かいことを考えると一概に言えないのですが、以下はざっくりとした概念図です。
パンを切りるときの参考になればと思います。

パン切り包丁の刃線の形は、どれも「点」で切り込むことができる構造なので、パンの表面の状態や柔らかさにほぼ関係なく、表面を削り取るように(食い込むように)パンに入り、そのままパンを切ることができます。
「シェフナイフは線で切る、パン切り包丁は点で切る」、ということになり、表面の硬さにも軟らかさにも幅広く対応できるパン切り包丁の方が、パンを切る総合性能が優れています。
以上が、パン切り包丁がある主な理由です。
毎日いろいろな種類のパンを切る人や、焼きたてパンを切ることが多い人にはパン切り包丁が欠かせませんが、「食パンを切る」というだけなら、シェフナイフでも対応できます。
◎パン切り包丁のデメリット
上の概念図を見ると、パン切り包丁の方が対応範囲が広いことがわかります。
仮に刃線が曲線のパン切り包丁を使えば、押して切る作業もでき、肉も野菜も楽に切ることができます。
つまり、「パン切り包丁の方が食材に対しての対応範囲が広い(シェフナイフより高性能)」ということになり、実際、パン切り包丁の研究の一環として、高性能だと予想される「GLOBAL IST-04」というパン切り包丁だけで1日の仕事をしたところ(パン切り包丁縛り)、予想通り汎用性の高さを証明したことがあります。
「シェフナイフより汎用性が高いのになぜ家庭用万能包丁としてパン切り包丁が普及しないのか」という疑問が出てきますが、その答えはもちろん「デメリット」が多いからです。
具体的には以下のようなデメリットがあります。
「砥ぎにくい」
「切り方によっては切り離れが悪い(刃線が凹んでいる)」
「食材の断面に線が入る」
「身幅が狭い(指がまな板に当たる)」
「安いパン切り包丁はしなりすぎる(剛性が低い)」
「皮むきが苦手」
「長すぎる」
「アゴを使えない」
などです。
やはり家庭の主力の包丁になるには、「砥ぎやすさ」を中心に、その他の要素が重要だとわかります。
◎パン切り包丁の種類
パン切り包丁にも様々な種類があります。
ノコ刃(ギザ刃)、波刃、そして刃線全体が直線的か、曲線的かなど様々です。
さらに、切っ先側だけパン切り包丁になっているものや、ノコや波の間隔が切っ先と刃元側で違うもの、そして左利き用のパン切り包丁もあります(通常は右利き用と呼べるものを左右兼用として販売されていることが多いです)。
さらに、「刃渡り」も切り心地を左右します。
一般家庭用のパン切り包丁として、上記の条件を全て満たしたものはなく、どれも一長一短ですが、用途や切り方に合わせて適切なパン切り包丁を選ぶと気持ち良くパンを切ることができます。
個人的には「全体が曲線的な刃線・刃先がノコ刃・刃渡り20センチ前後・自分の利き手用」のパン切り包丁が「家庭用万能パン切り包丁」としてオススメです。
参考までに、下図はパン切り包丁の代表的な刃先形状と刃線の形です。
刃先は主にノコ刃と波刃、刃線の形は直線的か曲線的かに別れ、その他ノコや波の度合いや間隔、刃線の反り具合、刃渡りなど、組み合わせは無数にあります。

以下の写真は、研究に使った「パン切り包丁(シェフナイフよりパン切りが得意な包丁)」です。
価格は千円前後から数万円まで様々です。
7丁のうち上の4丁が右刃付け、下の3丁が左刃付けです。
刃先の形、刃線の形、刃渡りの違いがわかります。


余談:トマト
トマトを切るときも、パン切り包丁の方が切りやすい場合があります。
一般的な野菜(果物)の中で、トマトだけは表面が硬いパンと似た特徴を持っているためです。
トマトの表面は水分がほとんどなく、皮が丈夫なため、シェフナイフで焼きたてのパンを切るのと似たような条件になることがあります。
ただし、切れ味が落ちたパン切り包丁でトマトを切ると、皮がキレイに切れないことがほとんどです。
陶器の底の部分でシェフナイフの刃先を擦ると、刃先がノコ刃のようになり、トマトの皮を簡単に切れるようになることがよくあります。
大小の差はありますが、トマトの皮を切るときは、刃先がノコ刃状になっているかどうかがポイントになります。
以上、パン切り包丁の話でした。
パンを切るときに常にパン切り包丁を使う必要はなく、シェフナイフでも充分に対応できる場合がることと、逆に、パン切り包丁でなければ対応できない場面があるということがわかったと思います。
少しでもお役に立てれば嬉しいです。