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洋包丁の世界はなぜスイング切りなのか  ―スライド切りのススメ―

更新日:12 時間前


弊社関連の動画の「切り方」を見ていただくとわかるように、ほとんどの動画は「スライド切り」で切っています。

しかし包丁教室に参加する生徒さんに普段の切り方を見せていただくと、「切っ先側を使ったスライドスイング切り」をする方が多く、「なぜそのように切るのですか?」と質問をすると、「特に理由はないです・なんとなく・言われるまで気付かなかったです」など、理由なくスイング系で切っていたという答えがほとんどです。


包丁で料理をするにあたって弊社がオススメするのは「スライド切り」ですが、洋食の世界(洋包丁を使う世界)では、ほとんどが「スイング系(スイング切り・スライドスイング切り)」です。

一般家庭で洋包丁を使う人も含め、なぜ洋食の世界ではスイング系の切り方が多いのか、その理由を書いてみます。





◎スライド切り


切り方には、大きく分けてスライド系とスイング系があります。


スライド系は、コンパクトで素早い「和包丁(薄刃包丁)」の基本の動きです。

スイング系は、大きくゆったりした「洋包丁」の基本の動きです。


スライド切りは、包丁の峰の角度がまな板に対して変わらないまま動きますが、スイング切りは峰の角度が変わります。


また、スライド切りの方が食材の断面にツヤが出て、安全な切り方です。


スライド切りはコンパクトで安定した動きが可能ですが、スイング切りは大振りになるため、動きが不安定です。


※スライド切りをするには、「直線的で乱れのない刃線の包丁」が必要です

 

【参考動画】

以下の動画は、大根の薄切りと千切りを例に、「スライド切り」と「スイング系の切り方(スライドスイング切り)」を比較しました。薄切りでは、両者の切る速度はほぼ同じですが、スライド切りの方が厚さが均一で安定感があります。








◎洋食の世界ではなぜスイング切りなのか


では本題です。

スライド切りの方が便利な場面が多いのですが、洋食の世界ではスイング系の切り方がメインです。

いったいなぜなのか、以下に理由を書いてみます。




1:砥石を使わないから(アゴ付近の刃線が乱れているから)


「洋」では砥ぎ棒か簡易シャープナーを使う場合がほとんどですが、それらを使うとアゴ付近の刃線が凹むことがあり、「スライド切り」ができなくなります。

簡易シャープナーを使う家庭では、アゴ付近の刃線が乱れることもあります。

写真のような凹みがでてしまうと、スイング切りを使わないと食材が切り離れなくなり、確実に切り離れる「スイング系」の切り方になります。

 



切り離れが悪い




このような刃線になるとスライド切りができません





2:プロほど長くて重い包丁を使うから


洋食の世界では、大量調理をする現場ほど、長い包丁(重い包丁)を使うことになります。

スライド切りをするには包丁全体を持ち上げる必要があるので、長い包丁では疲れやすいです。

疲労を少なくするには、切っ先をまな板に付けたままハンドルの上下運動で切る方が楽なので、スイング系の切り方が主流になります。

洋食のプロに包丁の使い方を教えてもらうと「スイング切り」を教えてもらうことになる場合がほとんどです。

業務レベルでは重い包丁を使いますが、家庭レベルでは軽い包丁なのでスライド切りをすることが可能です。

しかし「1:」の写真ように、アゴ付近の刃線が凹んでいる場合、軽い包丁でもスイング切りをすることがクセになってしまいます。


プロの包丁が長い理由についてはコチラ 

 



3:先輩たちからスイング系の切り方を教わるから


「刃線が乱れた包丁・長い包丁(重い包丁)」を使うと、スイング系の切り方をすることになります。

先輩がスイング切りをしていると、後輩は、スイング切りを教えてもらうことになります。そのため、なにも疑わずにスイング切りをしている人もいます。

自分がスイング切りをしているかもわからないかもしれません。


 

4:まな板の上でスイング切りしかできない包丁がある


「まな板の上で作業をする」という前提で考えた場合、「洋食の世界ではスライド切りを使わない」ということがよくわかる包丁が、以下、オランダ国籍の包丁「ROYALVKBシェフナイフ」です。

この包丁でスライド切りをすると「」のアゴ部分がまな板に当たらず、刻み作業ができません。

この包丁で食材を切ろうとすると、「スイング系の切り方しか使えない」ということになります。


ROYALVKB シェフナイフ
ROYALVKB シェフナイフ



アゴがまな板に当たらないためスライド切りでは食材が切り離れない
アゴがまな板に当たらないためスライド切りでは食材が切り離れない

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不思議なことに、「ROYALVKB 三徳包丁」もアゴ部分が同じ構造なので、スライド切りができません(興味がある方は検索してみてください)。

この構造ではスライド切りを使う三徳包丁の特徴が活かされないのですが、それでも販売されています。

少なくともこの会社のこの包丁は「スイング系の切り方しか使わないで料理をする」ということになります。

このような包丁を使うと、スイング切りしか使わない作業になり、切る楽しさの幅が狭くなってしまうだけでなく、「世の中にはスライド切りがある」ということさえ知る機会もないかもしれません。


※まな板の手前にアゴ部分を出してしまえばスライド切りはできます。柳刃包丁もハンドル部分をまな板から出して切りますが、それと同じような使い方です。





5:刃線に直線部分がない


図の下側のように、洋包丁には、新品状態から刃線全体が曲線のものがあります。

刃線の刃元側に直線部分(厳密には「限りなく直線に近い曲線」)がないと、スライド切りができません。



刃元側の刃線の比較(赤線部分がポイント)





6:まな板の硬さ


欧米では、日本よりも硬いまな板を使う傾向があります。

硬い木や大理石などをまな板として使った場合、スイング切りの方が刃先に優しい切り方と言えます。





7:食文化


日本では、調理されたものを食卓に乗せ、箸を使って食べることがほとんどですが、欧米は食卓に出た皿の上で食材を切ることも頻繁にあります。

「縁がある・平らでない」という条件が多い「皿」の上では、アゴを上げて前後させる使い方をしなければ食材は切り離れません。

そのため、まな板の上でも、アゴを上げるスイング系の切り方が定着したのかもしれません。





8:身長の差?


「身長差による手首の負担」という理由もあるかもしれません。

同じ高さのキッチンを使う場合、身長が高いほどスイング切りをする方が楽になる傾向があります。

日本人と欧米人では、欧米人の方が平均して10センチ前後身長が高いそうです。

ただ、日本ではキッチンの高さは85センチ、欧米では91センチが一般的と言われているので、それぞれ自分のキッチンを使う前提なら、身長の差は手首の負担にはほとんど関係ないかもしれません。

ただ、日本在住の欧米人のシェフが日本の厨房をつかったときは、スイング系の切り方を多用したくなるかもしれませんし、欧米では、家庭でも靴を履く文化がある(靴底の厚さで相対的にキッチンの高さが低くなる)ことも考える必要があるかもしれません。

いずれにしても「身長差」が影響している可能性も否定できないと思います。






◎スライド切りのススメ


「日本の食文化」という前提はありますが、切る食材や、求める完成形によっては、スライド切りの方が優れている場合が少なくありません。

スライド切りは刃線の乱れのある包丁ではできませんが、砥石を使って砥ぐことで刃線は整います。

また、刃物用鋼材やまな板の素材の進化によって、刃とまな板の接触による刃欠けの度合いも少なくなっているので、スライド切りを避ける理由はないと思います。


弊社サイトの動画やサイト右上のリンク先(各SNS)を見ていただくとわかるように、ほとんどスライド切りで切っています。


※ユニバーサルエッジを使うと、玉ねぎのみじん切りもスライド切りだけで切ることができます

インスタグラムより


スライド切りは、安全性や安定感もメリットなのですが、なによりも楽しいです。

楽しいことは続けられるので、スライド切りには料理を楽しく続ける効果もあります。

まだスライド切りの経験がない人は、ぜひ試してみてください。



以上です。

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