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包丁の肉抜き ―成長する包丁―

更新日:5月20日



「PROCEED(プロシード)は肉抜きが必要ですか?」という質問をいただきました。



「PROCEED」

※PROCEEDとは、弊社が販売している「ユニバーサルエッジ(片刃の洋包丁)」の商品名です




◎「肉抜き」とは


「肉抜き」とは、下図のように、長く使って厚くなってしまった刃先を薄く研ぎ直すことです。

※「肉を切ってはいけない」とか「ベジタリアンの食事」のことではありません(笑)





◎PROCEEDは肉抜きが必要ですか?


結論から書くと、「肉抜き」は不要です。

不要な理由はいくつかありますが、今回は主な理由のひとつ「刃の厚さの変化」を中心に書こうと思います。


本文では「峰厚・刃先厚・身幅」などがキーワードになります。

「身幅」は「刃幅」と同じ意味で、包丁を横から見たときの峰からアゴまでの距離です。

家庭用万能包丁の身幅は45㎜前後が一般的です。

身幅が減ると肉抜きが必要になることがあります。





◎肉抜きが必要な刃の厚さについて


以下のイメージ図1は、この投稿でポイントになる「刀身の断面」を、わかりやすく大げさに表現したものです。



<イメージ図1>


図の「峰厚」とは、包丁の刀身の上の部分の厚さです(「峰」は「背」とも表現されます)。

「刃先厚」は、刃をつける部分の厚さです。


ユニバーサルエッジは峰厚が小さく刃先厚が大きい刀身、プロ用シェフナイフや高級包丁は、峰厚が大きく、刃先厚が小さい刀身の傾向があります。


肉抜きが必要になるのは、右側の包丁(プロ用や高級な包丁)です。

峰厚と刃先厚の数値の差が大きいほど三角の度合い(テーパーの度合い)が大きくなり、将来肉抜きが必要になりやすい包丁と言えます。


2つの刀身の断面を比較すると。ユニバーサルエッジは刃を砥ぎ進めて身幅が減っても刃先厚が変わりにくい形状、そしてプロ用シェフナイフは身幅が減ると刃先厚が変わりやすい形状だとわかります。

肉抜きが必要になる傾向が強い包丁は、具体的には、峰厚2.2㎜以上、刃渡り200㎜以上、重さ200g以上の包丁です(もちろん例外もあります)。




次に以下のイメージ図2をご覧ください。

上のイメージ図1よりも実際に近い形です。


細かい数字はいろいろあるのですが、ユニバーサルエッジと、プロ用シェフナイフの20年間の減り方のイメージです。



<イメージ図2>



そして以下が実際の包丁の写真です。


左がユニバーサルエッジ、右が推定10年以上使ったプロ用シェフナイフです。

ユニバーサルエッジは私が4年間で4万食(1日平均30食)作ったものですが、身幅は0.5㎜しか減っていないため、刃先厚も新品状態とほぼ同じ厚さです。

今後20年使い身幅が2.5㎜減っても刃先の厚さは大きく変わりません。

※4万食作ったユニバーサルエッジの横から見た写真はこちらを参考に



一方右側のプロ用シェフナイフは、新品時はユニバーサルエッジより刃先厚が薄かったはずですが、10年以上使うと身幅が大きく減り、刃先厚も大きく変わることがわかります。

こうなると切り込み抵抗が増えて使いにくくなるので、新品時の切れ味を回復させるためには大胆な肉抜きが必要になります。


このシェフナイフは知人のシェフから「使わないからあげるよ」と研究用としていただいたものです。

新品状態から10㎜は減っていると思われ、ここまで減るとデメリットが多い包丁になってしまいます。

※参考までに、ユニバーサルエッジの身幅を10㎜減らすには毎日30食作って80年かかる計算です






下のイメージ図3は、20年後を想定した刀身の形の比較です。

20年使ってもユニバーサルエッジの刃先厚はそれほど変わりません。

そしてプロ用のシェフナイフの刃先厚は20年で大きく変わります。

肉抜きが必要になるのはプロ用シェフナイフだとわかります。


<イメージ図3>





◎ユニバーサルエッジは使うほどプラス成長


ユニバーサルエッジはもともと「薄切りの刃離れや砥ぎやすさを目的にした片刃の刃付け」なので、硬いものを切り分ける作業では、ある程度の切り込み抵抗を新品時から感じます(と言っても刀身が薄いので和包丁より扱いやすいです→詳しくはこちらを参考に)。



そのため、刃先厚が増えても切れ味が落ちたと感じることはほとんどなく、刃先厚の増加による違和感は「慣れ」で吸収できます。



むしろ刃先厚が増えることで刃離れ効果がさらにアップするため、ユニバーサルエッジの特徴である「薄切りの刃離れ」の達成度は時間の経過と共に上がり続けます。



ということで、ユニバーサルエッジの場合、使うほど薄切りの刃離れ効果がアップし「プラス成長を続ける包丁」と言えます。



参考:PROCEEDの10~20年後の切れ方

成長したユニバーサルエッジの切れ方については、実際に以下の動画で見ていただけます。

前半がユニバーサルエッジです(後半は両刃包丁です)。

新品から10~20年後に想定される刃先厚で切っていることになります(使っている包丁は藤次郎F-875改)。

刃先厚が増えても10年以上かけて慣れてしまうため違和感はありません。







◎両刃は使うほどマイナス成長


一方、「プロ用シェフナイフ・家庭用高級包丁(いずれも両刃)」は、刃渡りが長いことと強度の関係、そして高級感を演出する意味もあってか、峰厚は厚い傾向が一般的です。

しかし、刃先厚はその逆で、「鋭い切れ味」を出すために新品時の刃先厚は薄くなっていることが多く、峰から刃先までの三角の度合いがユニバーサルエッジより強くなる傾向です。

それに加え、「両刃」のため刃先が減りやすく、刃先厚の増加はユニバーサルエッジより顕著に現れ、20年後には刃先厚が2mm前後になります(あくまでも目安です)。

これは新品時の刃先厚の「10倍前後」の厚さのため、新品時と比較して切り込み抵抗がかなり増え、違和感が強くなります。


金属の性能が上がり、食材が柔らかくなった現代の生活様式では、「刃先の丈夫さ」や「硬い食材の切りやすさ」など、両刃のメリットは少なくなりつつあります。

現在、両刃包丁にとって「切り込み抵抗の軽さ」は、「それが全て」と言えるほど大切な性能なので、刃先厚が増えることは「マイナス成長」です。


つまり両刃の包丁は、新品時をピークに性能が落ち続け、使うほどマイナス成長する(切り込み抵抗が増える)ことになります。



そしてマイナス成長の穴埋めのために、今回のテーマ、「肉抜き」が必要になるわけです。



以下、参考までにプロ用シェフナイフの肉抜きの「イメージ図4」です。

太い刀身の包丁は20年後には身幅がかなり減り、刃先厚は新品の0.2㎜から10倍の2㎜まで太くなる可能性があります。


<イメージ図4>


肉抜きをすることで、新品時の性能に近い切れ味が復活しますが、常に高い性能を維持したいと思うほど肉抜きの頻度が増えます。

また、肉抜きの際には、5:5の完全両刃にしないと「硬い食材を効率良くまっすぐに切ることができる・左右兼用で使える」という両刃の特徴を発揮できないことも考慮する必要があります。




では、ここまでの話を整理します。


「プロ用シェフナイフ・家庭用高級包丁」などの両刃の包丁は、基本的に「切り込み抵抗の少なさ・抜けの良さ」など、硬い食材を切り分ける性能を追求する包丁です。

そのため、新品状態ではとても切れ味の良い包丁がほとんどです。

しかし両刃なので身幅が減りやすく、比較的早く刃先厚が増えてしまいます。

刃先厚の増加に比例して切り込み抵抗が増えるため、新品時の切れ味に近づけるには「肉抜き」が必要になります。

また、両刃は左右対称に砥ぐことが難しく、新品時の鋭い切れ味を家庭で手軽に維持することが困難です。

両刃の包丁は、言ってみれば新品時の性能をピークにして、時間の経過と共に刃先厚が増える、つまり「マイナス成長」してゆく包丁です。



片刃のユニバーサルエッジは、切り込み抵抗の少なさによる切れ味の良さは追求はせず、「薄切りの刃離れ・砥ぎやすさ・汎用性」を追求する包丁です。

「柔らかい食材や薄切りに対する切れ味」は、刃先の砥ぎ角の関係で両刃よりも優位ですが、「硬い食材に対する切り込み抵抗の軽さ」では、両刃には及びません。

しかし片刃なので身幅が減りにくく、刃先厚の増加もゆっくりなうえ、刃先厚の増加に比例して薄切りの刃離れ効果が増えていきます。

さらに、砥ぎやすい包丁なので、新品状態の切れ味を家庭で維持できます。

ユニバーサルエッジは、新品時の性能をスタートとして、時間の経過と共に「プラス成長」してゆく包丁と言えます。

もちろん「肉抜き」も不要です。





◎まとめ


ユニバーサルエッジは肉抜き不要です。

その理由は以下です。


・元々刀身が薄い(薄い刀身は切り込み抵抗が少ない)


・峰厚が薄く刃先厚が厚めの刀身のため、身幅が減っても厚さの変化が少ない(長く使っても刃先厚が増えにくい)


・そもそも片刃なので身幅が減りにくく、減りにくさに比例して刃先厚も増えにくい。


・減りにくいので少しずつの変化に自然と身体が慣れていく


・硬い食材への切り込み抵抗の少なさがユニバーサルエッジの目的ではない(たとえ刃先厚が増しても使用目的に反しないため肉抜き不要)


・刃先厚が増えると、むしろ薄切りの刃離れ効果が増す(包丁が成長する)


・・・


厚い刀身しか作れなかった時代は、刀身の肉抜きをしながら使うのは日常的なことだったのかもしれません。


また、現代でも業務用の包丁は、途中の肉抜きを前提とした設計をする必要もあるかもしれません。


しかし私が研究している「家庭用万能包丁(現代の食文化に合う家庭用万能包丁)」として考えた場合、肉抜きが必要なほど厚みのある包丁を作る必要はないと思います。


「肉抜き」の作業は、プロにお願いして1000円~5000円ほどの料金もかかります。

ユニバーサルエッジのように、「肉抜きの必要のない薄い片刃の包丁」なら、金銭的負担が不要なだけでなく、金属資源も節約でき、自分でも砥ぎやすく、包丁は時間の経過と共にプラス成長を続け、良いことばかりだと思います。





☆おまけ


将来肉抜きが必要になりそうな三徳と、肉抜き不要のユニバーサルエッジです。

三徳包丁は比較的小さめですが、例外的な形でした。

ユニバーサルエッジと比べ刀身の断面の形の違いがはっきりわかると思います。


















その他、手元にある包丁(いただきもの)を並べて刀身の断面を撮りました。

様々な表情があります。



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