「砥ぎやすい包丁」の要素のひとつ、「砥ぐ面積」について、和包丁・洋包丁・ユニバーサルエッジで比較してみます。
以前も書いたのですが、ネット上には
「和包丁と洋包丁の違いは砥ぎやすさです。和包丁は片刃、洋包丁は両刃です。片刃は片側しか砥がなくてよいので、和包丁は砥ぎやすいです」
という情報もあります。
実際はどうなのか、その本質が理解できると思います。
◎クイズ
はじめにクイズです。
以下の図は、3種類の包丁の「砥ぐ面積」を示したものです。
それぞれ赤い部分を砥ぎますが、A~Cのうち一番砥ぎやすいのはどれですか?
答えはCの包丁です。
以下、その理由などを書きます。
◎砥ぐ面積の違いについて
下にあるイメージ図1は、上の図と同じものです。
上から和包丁・洋包丁・ユニバーサルエッジ、それぞれどの部分を砥ぐか、「赤い面積」で示したものです。
刃渡り180㎜をイメージした左右の刀身・赤い部分を太めに書いてあります。
※片刃は右利き用の説明です。
イメージ図1
どの包丁も赤い部分を砥ぎますが、和包丁は切り刃の幅が広く、裏側をベタ砥ぎするので、研ぐ面積が大きいことがわかります。
面積が大きいだけでも砥ぐのは大変ですが、包丁は曲線部分もあるのでさらに難しくなります(刃線が直線的な薄刃包丁は砥ぎやすい場合があります)。
イメージ図1を見れば、ユニバーサルエッジが最も簡単に研げることがわかります。
そして下のイメージ図2は、左側のグレーの部分が刀身の断面図です。
これも全て刃渡り180㎜という前提です。
和包丁は刀身の裏の上まで砥ぐので刀身全体を書きました。
洋包丁とユニバーサルエッジは刀身の下半分だけ書いてあります。
イメージ図2
和包丁は小刃を含めて切り刃の幅が15㎜、裏押しは2㎜で計算しています。
洋包丁は左右ともに1㎜(菜切り包丁もこのグループに含めて考えます)。
ユニバーサルエッジは右側だけ1.5㎜という前提です。
厳密ではありませんが、結果は、和包丁は研ぐ面積が3420㎟、洋包丁は360㎟、ユニバーサルエッジは270㎟となりました。
「砥ぎやすさ」について考えるときはいくつかのポイントがあり、「少ない面積・利き手側」というのは大切な要素です。
ユニバーサルエッジの面積が一番少ないことがわかりますが、さらに、「利き手側だけ砥げばよい」というのも、砥ぎやすさに大きく貢献します(右利きの人は右側の刃が砥ぎやすいと感じるためです)。
和包丁はユニバーサルエッジの10倍以上の面積なので、作業時間、砥石の周囲の汚れ、コストなどが何倍にもなると思います。
※ユニバーサルエッジの普段の砥ぎ時間は、6000番の砥石を使って1分以内です(準備と片づけを合わせても2分以内です)
◎ではなぜ「砥ぎやすい」と書かれているのか
「和包丁は片刃だから砥ぎやすい」と言えるのは、刀剣やアウトドア用の大型サバイバルナイフなど、母材の厚い両刃の刃物と比較した場合です。
しかしそれらの刃物は日常のキッチンでは使わないので、比較対象として現実的ではありません。
「和包丁は片刃だから砥ぎやすい」と書かれている理由は、筆者の「誤解・間違い・勘違い」などだと思います。
「和包丁は片刃だから両刃の洋包丁より砥ぎやすい」というのは家庭で使う刃物のレベルで考えた場合、基本的に間違いです。
「砥ぎやすい包丁が欲しい」と思って和包丁を買うと、期待とは逆の結果になるので注意が必要です。
※刃線が直線的な「薄刃包丁」は、ある意味砥ぎやすい包丁ですが、汎用性がないため他の包丁を買うことになり、その包丁を砥ぐ手間が増えます。
※刃渡り330㎜の業務用の洋包丁と刃渡り100㎜の小型の和包丁の場合は和包丁が砥ぎやすいと思いますが、現実的な比較ではないと思います。
◎まとめ
「砥ぐ面積が小さい」
「砥ぐのは片側だけ」
この2つの条件を満たした包丁が「砥ぎやすい包丁」と言えます。
そして和包丁・洋包丁・ユニバーサルエッジの特徴は以下です。
和包丁 → 砥ぐ面積が大きい・両面を砥ぐ
洋包丁 → 砥ぐ面積が小さい・両面を砥ぐ
ユニバーサルエッジ → 砥ぐ面積が小さい・片面を砥ぐ
和包丁は研ぐ面積が洋包丁の約10倍あり、片刃ですが左右両面を砥がなければなりません。
一方洋包丁は両刃ですが、砥ぐ面積が和包丁の10分の1程度なので、和包丁より砥ぎやすいです。
そしてユニバーサルエッジは片刃かつ洋包丁なので、包丁の中では最も砥ぎやすい包丁だと言えます。
※ユニバーサルエッジの場合は砥ぎやすいうえに「シームレス砥ぎ」を使うので、さらに砥ぎやすくなっています。1分以内で砥げるのは、「少ない面積+片刃+シームレス砥ぎ」の効果によるものです。
以上です。
「砥ぎやすさ」の目安として、刃物用鋼材の質・砥ぐ面の複雑さ・砥ぐ面の長さ(刃渡り)などもあります。
よかったら以下「片刃は砥ぎやすい?」も参考にしてください。
※刃物用鋼材の質については「砥石との相性」があるようですが、ダイヤモンド系の砥石を使えばどんな金属でも問題なく砥げると思います。