ユニバーサルエッジを使っているお客様から、「両刃には戻れなくなるという意味がわかりました(^^♪、ただ、Norikoさんのように薄く切れないんです。なぜでしょうか」とお悩みを相談されました。
これは技術的な問題ではなく、ちょっとした意識改革で解決します。
細かい話なので、野菜を薄く切ることに興味がある人はじっくり読んでみてください。
料理をする人の中では当たり前のことかもしれませんが、私もこれを知ったときは、薄切りのレベルがひとつ上がった記憶があります。
以下の見出しで書きます。
●薄切りの仕組み
●厚く切ってしまうもうひとつの理由
●手で感じる切り方
●片刃のすごさ
●最後に
●薄切りの仕組み
薄切りのポイントは、「刃先の厚さ」と「上から見たときの刃の位置」です。
下図に出てくる包丁は、刃の厚さが1㎜という前提で考えてみてください。
両刃の包丁を使い、右利きの人がキュウリの薄切りをする作業で説明します。
緑の線が食材の右側、青の線が真上から見ている場所、赤の線が実際に切れる場所です。
緑の線から青の線までを想像して切ると、実際は赤の線で切ることになるので、その誤差の分が厚くなり「思ったほど薄く切れないなあ」と感じます。
上の図は刃先の厚さが1㎜の両刃の包丁で、厚さ1㎜の薄切りを作りたい場合の切り方です。真上から見える食材の幅は、1㎜ではなく0.5㎜にする必要があります。
※包丁の右側から刃先を見ながら切れば、実際に見た通りの薄さで切れます
ユニバーサルエッジを使って薄切りをする場合は、実際に見ている部分と、実際に切れる部分の誤差が、両刃よりもさらに増します。
その理由は、完全片刃なので、下図のように、左側に刃先があるからです。
上記の両刃と同じように、食材が0.5㎜見える状態でユニバーサルエッジで切ると、
実際は1.5㎜の薄切りになります。
1㎜で切るには、真上から見て食材がほぼ見えない状態で切る必要があります。
以下はキュウリの薄切りを真上から撮影したものです。
キュウリが見えないことがわかります。
薄切り動画
●厚く切ってしまうもうひとつの理由
自分が思ったより厚く切ってしまう理由は「見た目と実際の刃の位置の誤差」ということがわかっていただけたと思いますが、もうひとつ、厚く切ってしまう理由があります。
それは、特に上記ユーザーのように、両刃から片刃に持ち替えたときのパターンで多く見られます。
両刃の包丁は、そもそも薄切りが苦手で、薄く切ろうとするほど刃が右側に落ちてしまい、切るのが難しくなります。
たとえば人参を0.5㎜で切ってみようとすると、安定して切ることができず、ある程度の厚みが必要になります。
そして、家庭では刃先が丸くなったままで、切れ味が落ちている包丁を使っている人も多いからです。
刃先が丸いと食材の角がつぶれてしまい、物理的に薄く切ることができなくなるため、厚く切ろうとしてしまいます。
下図をご覧ください。
刃が鋭いと食材に食い込みます(左図)。
刃が丸いと食材の角がつぶれてしまい、包丁が食材の右側に滑り落ちてしまいます(右図)。
右図の包丁で刃先を食材に食い込ませるには、厚く切らないといけません。
なので砥いでいない両刃の包丁を使っている方は、薄切りが厚くなりがちです。
包丁教室の生徒さんに「できるだけ薄く切って」とお願いすると、1.5㎜~2㎜で切ろうとする人が多く、1㎜以下で切ろうとする人はいません。
その理由は、普段から、「切れない両刃包丁」を使っているからです。
「刃の厚みの誤差」という理由も含め、「切れない両刃包丁」を使っている人は、ユニバーサルエッジを使うと、厚く切ってしまう傾向があります。
余談ですが、「切れない包丁を使うと厚く切る」という興味深い話を思い出しました。
20代の生徒さんにユニバーサルエッジを渡して、「できるだけ薄く切って」と大根の薄切りをお願いしたところ2㎜で包丁の刃を当てて、そのまままっすぐに切ることができました。
ユニバーサルエッジは片刃なので、2㎜の厚さで刃を当てると、通常は左下に向けて刃は入っていき、まっすぐに切ることができません。
人によっては2㎜で切り始め、切り終わったときは5㎜になっているようなこともあります。
しかしその生徒さんは、2㎜で切り始め、切り終わりも2㎜でした。
つまり、普段から片刃を使っているということです。
切れ味の良い片刃なら1㎜以下で切れますが、生徒さんは2㎜の厚さで切ったので、普段は「切れ味の悪い片刃」の包丁を使っていることになります。
普段切れ味の悪い包丁を使っているということは、生徒さんのお母さんは包丁を砥がない、つまり切れ味にこだわりはない、ということになります。
片刃の包丁を使う人は、切れ味にこだわる人がほとんどです。
ということは、お母さんは、先代(生徒さんのおばあさん)から譲り受けた片刃の包丁を、砥がないまま使っているということになります。
ユニバーサルエッジはその当時なかったので、生徒さんのおばあさんが使っていたのは薄刃包丁だとわかります。
洋包丁がある時代にあえて薄刃包丁を使うということは、「薄刃包丁を使わなければならないこだわり」がある人だと想像できます。
そこで「おばあさんはプロの料理人だったの?」と尋ねたところ、「え!そうなんです、なんでわかるんですか?出汁はカツオから、という人でした」と驚いていました。
生徒さんは、大根の薄切りを見ただけで、おばあさんがプロだとわかる理由がわからないようでした(^^♪
●手で感じる切り方
上記のように、目で見る切り方が自分に合わない場合は、手で感じる切り方があります。
「手で感じる切り方」とは、スライド切りと猫の手の組み合わせを使い、手で食材の厚みを感じながら切る方法です。
「どんな感覚だと何㎜で切れるか」というデータを集めながら練習する必要があり、少し時間がかかりますが、慣れれば早い切り方です。
私はトントントンとリズムよく切る切り方(スライド切り)は、手で感じながら切ることもあります。
この方法を覚えると、目を使わないので、火加減を見ながらでも、おしゃべりをしながらでも作業ができます。
私の生徒さんたちは、30分の練習で、目を閉じたまま切れるようになり、長期滞在の研修生の場合、毎日1時間の課題をこなすことで、1週間後には「トントントン」の切り方がリズムよくできるようになります。
興味がある方は私の包丁教室に参加してみてください(^^♪
「トントントン」ができるようになったら、さらに練習すると、こんなこともできます。
動画は、平均1㎜の厚さで、切り離れも良好です。
手で感じる切り方でも、厚さが大きく乱れることなく切れます
これは「手で感じる切り方」の上級編です。
この切り方に必要なのは、ユニバーサルエッジ(刃離れ効果)・平らなまな板(切り離れ効果)・安定したフォーム(厚さの均一性)・手首の引き切り(スピード)、です。
動画と同じ切り方ができるのは、ユニバーサルエッジだけです。
●片刃のすごさ
初めに書いたように、野菜の薄切りは、両刃でも片刃でも、「刃の位置」を意識することで一段階薄く切ることができます。
さらに、「スライド切り・猫の手・安定したフォーム」など、薄切りの基本ができるようになると、以下のような0.4㎜前後の薄切りもできます。
左は一番薄切りが上手な研修生、右はお店のマスターです(私が切るともう少し厚くなります(笑))。
左が平均0.39㎜、右が平均0.42㎜の薄切りですが、これはユニバーサルエッジを使っています。
上記0.4㎜クラスの薄切りは、キレイに飾れば大きな感動を生み出しますが、スライサーでは断面が荒れてしまいますし、両刃包丁では薄さが不安定になり、薄く切れても透ける度合いにムラができます。
野菜の薄切りが楽にできることも、ユニバーサルエッジ(完全片刃の洋包丁)のすごさだと思います。
ユニバーサルエッジ以外で写真の切り方ができるのは、やはり完全片刃の薄刃包丁だけです。
※もしお手持ちの包丁で0.4㎜の薄切りが楽にできるとしたら、それは片刃包丁だと思いますが、もし両刃包丁なら、どのような刃付けか興味があります、ご連絡いただけたら嬉しいです。
食材の厚さの計り方は、まず切る前の食材の長さを計り、10枚切ってから、切っていない方の食材の長さを計り、その差を10で割る方法が正確です。
10枚切って食材が8㎜短くなっていたら、平均0.8㎜ということになります。
究極の薄切りをしたい場合は、下図のように刃を当てることになり、真上から食材は見えません。
また、両刃(右図)では左側の刃が右側に落ちようとする力の影響で、まっすぐに包丁をおろすことができません。
ゲームだと思って挑戦すると楽しいです(^^♪
●最後に
ユニバーサルエッジには、誰でも野菜を1㎜の薄さで切る実力があります。
慣れればもっと薄く安定して切ることができます。
あとは、ユニバーサルエッジをお使いになっているご本人が、食材を思い切って薄く切る勇気が出るかです(^^♪
あるユニバーサルエッジのユーザーさんは、「両刃には戻れない意味は分かりましたが、私はまだNorikoさんのように薄く切ることができません」と言っていました。
私が刃の位置について説明し、「なるほど!」と喜んでくださいましたが、実践するにはもう少し時間がかかるかもしれません。
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