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木のまな板をオススメしない理由 ―本質的な情報―

更新日:1 日前



先日「木のまな板」について気になったことがあったので書いてみたいと思います。

とても簡単に書くと、「木製」のまな板と「樹脂製」のまな板の比較についてです。



木と樹脂のまな板を比較した場合、総合的に優れているのは樹脂製です。

実際、多くの家庭や事業所で樹脂製のまな板が使われています(以前7件の事業所を訪問したとき、7件全てが樹脂製のまな板を使っていました)。



「昔から木のまな板が使われてきたのは、木が優れた素材だから」という意見は確かにその通りですし、木目のあるデザインからは美しさやかわいらしさを感じることができます。

しかし「木のまな板」が使われてきた理由は、「優れた素材だから」ではなく、「その時代に一番優れていた素材だから」です。

逆に言えば「昔は木のまな板しかなかったから」です。



たとえば刃物の素材として「黒曜石」が使われていたのは、「その時代に優れていた素材だから」ですが、金属が開発されてからは、刃物の素材は金属へ移り変わりました。

金属の方が総合的に優れていたからです。

同じように、木のまな板から樹脂製のまな板が主流になったのも、現在は樹脂のまな板が総合的に優れているからです。





◎本質的な情報を伝える


時代の移り変わりとともに、包丁にまつわる新しい技術や新しい素材が生まれていますが、たとえば「ステンレスよりハガネの方が切れ味が良い・牛刀は両刃でなければならない」など、一部で過去の情報が更新されていないことがあります。


「まな板の素材」についても同様です。

現在は樹脂の性能が進化し、木のまな板よりも総合的に優れていますが、今でも木のまな板の方が優れていると信じている人もいます。


その理由は主に3つあり、ひとつめは、登場初期の硬い樹脂製のまな板しか知らないことが主だと思います。

たとえばポリプロピレン製のまな板(硬いまな板)を使い、「樹脂製は硬いから使いにくい」と判断した人は、それ以降「樹脂は硬い」というイメージが固定されます。

たとえ30年後に柔らかい樹脂製のまな板が発売されても使うことはないかもしれません。


ふたつめは、「木のまな板」を売っている企業の都合もあると思います。

木のまな板しか販売していない会社は、木のまな板を勧めるかもしれません。

「面倒なので新しい情報を勉強したくない」という人や、たとえ樹脂製の方が総合的に優れていることを知っていても、「木のまな板の方が優れている」と公言してしまったため、発言を訂正することに抵抗がある人もいるのかもしれません。


そして3つめは、「木の方が優れている」という情報を鵜呑みにしている人がいるからです。


このように、様々な理由があると思いますが、実際は、「木の性能を上回る上質なまな板がたくさん販売されている」というのが本質だと思います。





◎木のまな板のデメリット


企業が「ユーザーの幸せのため」に存在するなら、下記のような本質的な情報は積極的に発信する必要があるはずです。

まな板については、以下を読むだけで過去の情報を更新できると思います。

※プラスチックと樹脂は、この場では同義としています


・まな板全体を充分に濡らす必要がある

木のまな板は、使用前に水で濡らすのを忘れると、食材の水分が染み込んでしまい、食材の貼り付きやニオイ、そしてカビの原因になります

 


・変形しやすい

水分を含むため、片方だけ使い続けたり、季節が変わったりすることで変形する場合があります。

※水分を含んだ側が膨らみ変形しやすい



・手入れや保管の手間がかかる

アルカリ消毒(漂白剤消毒)に弱いため、除菌には「熱湯消毒」という手間がかかります。

また、よくふいてから陰干しをする必要や、曲がりを防ぐ保管方法が必要になります。



・品質が不安定

天然素材はひとつひとつの品質が不安定なので、自分では気に入ったとしても他の人にオススメできない場合があります。



・不衛生

木が溶けたり柔らかくなったりしてしまうため、強力なアルカリ消毒が不向きです。

そのため傷からカビが発生しやすいです。

黒くなった木のまな板は、使うことに精神的な負担もあります。

木のまな板を使わなくなるだけでも感染症になる確率が下がるかもしれません。

※樹脂製のまな板は強力なアルカリ消毒に耐えます



・ニオイが落ちにくい

水分を吸うため、魚をさばいたときなどはニオイが落ちにくいです。

プラスチックなら水分を吸わないためニオイが残りにくく、アルカリ消毒をすれば数分でニオイが落ちることがほとんどです。

 


・不経済

木のまな板はもともと高価なものですが、プラスチックと比較して寿命が短く、たとえ表面の削り直しができるとしても、新品が買える料金が必要だったり、​削り直しに出しているときの代用のまな板が必要になり、不経済です。

 


・SDGs貢献度が低い

木を伐採し、乾燥させ、加工するための労力や、必ず出てしまう削りカス、そして継続的なメンテナンスなどを考えると、樹脂製と比較してSDGs貢献度が低いことがわかると思います。



木のまな板の「良さ」について書いてあるサイトも多く見つかりますが、ユーザー本位の視点からオススメできるのは、間違いなく「樹脂製のまな板」です。

たとえば健康食品や健康グッズを販売する企業の社員が自社製品を使わないことがあるように、木のまな板をオススメしている会社の社員も、自社製品を使っていないことがあるかもしれません。

それはつまり、樹脂製の方が総合的に優れているということです。

また、本当に良いものなら、多くのユーザーに選ばれているはずですが、一般家庭はもちろん、プロの世界でも樹脂製のまな板が主流で、事業所に対して「木のまな板を使わないように」と指導している行政機関もあるようです。




現在は「木のまな板をオススメする理由」として、「実用的・合理的」と説明する時代ではなく、「趣味の世界や心の世界を重視するため・なんとなく落ち着くから」と説明する方が合理的と言えます。

これは、暖房としてコストのかかる「薪ストーブ」を使う理由を説明するのと似ているかもしれません。



備考1:

プラスチック製のまな板のデメリットを強いて挙げるなら「熱」です。

一部耐熱温度が70度までなど、熱に弱いものがあります。



備考2:

「実験室レベルでは木も樹脂も衛生面では変わらない」という結果もありますが、それは実験室レベルだからです。

実際の使用環境では木の方が不衛生です。

また、仮に衛生面で変わらないとしても、他の特徴を比較したときは樹脂製のまな板の方が優れています。





◎硬さの誤解


「プラスチック製のまな板は硬い」と思っている人が一定数いるようですが、ポリプロピレンなど硬い部類の樹脂しか使ったことがないのかもしれません。

エラストマーなど「柔らか系」の樹脂製のまな板はたくさん販売されています。

また、「木製のまな板は柔らかい」というのも誤解で、硬い木を使ったまな板もたくさん販売されています。

ということで、「プラスチック製のまな板は硬いから刃欠けする・音がうるさい」「木のまな板は柔らかいから刃欠けしない・音が静か」という表現は誤解です。





◎キッチンセットの移り変わり


参考までに、まな板だけでなく、砥石も包丁も進化しています。

以前の砥石は、使う前に水に浸し、落としたり倒したりすると割れるタイプでしたが、現在は表面を濡らすだけのものや、割れないものが普及しています。

包丁も、サビや鉄のニオイが気になったハガネから、それらを改善したステンレスへ移行しています。

以下のイメージ図は、キッチンにある「砥石・包丁・まな板」の移り変わりです。

概ねこのような流れで現在に至っています。



以上です。



 
 
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