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シェフナイフの反り(ソリ)が強い理由

  • tihal86
  • 11月13日
  • 読了時間: 4分

更新日:4 日前


「シェフナイフの反りが強いのはなぜですか?」という質問をいただきました。

以前包丁に反りがある理由については書きましたが、シェフナイフの反りが強い理由については書いたことはありませんでした。

どのような包丁にもある程度の反りがありますが、実際、一般的な三徳包丁や和包丁と比較すると、シェフナイフは反りが強いことが特徴で、ハンドルを持ち上げて引いて切るために必要な反りの度合いを超えた強い反りがあるシェフナイフも見かけます。


以下は反りの強さのイメージ図です。


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以下、仮説として答えを書こうと思います。



◎シェフナイフの反りが強い理由


結論から書くと、シェフナイフの反りが強い理由は「皿の上で肉を切り分ける文化を引き継いでいるから」です。


欧米では、ナイフとフォークを使って皿の上で食材(主に肉)を切り分ける文化があります。

ほとんどの場合、ナイフを前後に往復させて切るので、ナイフに反りがないと押すときに切っ先が食材の下に入ってしまい、気持ち良く切ることができません。

そのため強い反りが必要になります。


下図は皿の上で肉を切るときのイメージ図です。

反りがないと、包丁を押したときに、切っ先が肉の下に入り込んでしまうことが想像できると思います。


皿の上で肉を切るときのイメージ図

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欧米でナイフの反りの部分を使う理由、逆に言えばアゴが重視されない理由は、「皿の上で切る文化だから」以外にも以下があります。


「皿の縁にアゴが干渉するのを防ぐ意味でハンドルを上げるため、結果的に反りの部分を使うことになる」


「砥ぐときに砥ぎ棒を使うとアゴの刃線が凹むので反りの部分しか使えなくなる」


「アゴが接地できないような作りになっているシェフナイフも販売されている(アゴを使わないため)」


このような理由から切先側しか使わない事情があり、切っ先側で押しても引いても使えるようにするためには「反り」が必要になります。

そして、「反り」が強いほど、基本的に押したときに切りやすくなる傾向が強くなります。



以下の写真は上が洋包丁、下が和包丁です。

写真の洋包丁は、アゴが接地しない構造になっていて、しかも新品の状態からアゴ付近の刃線が少し凹んでいることがわかります。

つまり、アゴを使う作業はしないこと(反りの部分を使うこと)が前提になっていることがよくわかる包丁です。


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昔のナイフは切れ味が悪く、野生動物の肉が硬かったことなども考えると、皿の上でナイフを何度も往復させて切ることが多かったはずです。

気持ち良く切ろうとするほど、反りが大きくなっていったと思われます。


また、食卓上では使わないような大きなシェフナイフにも反りが大きなものがありますが、その理由は単に「デザイン・過去の名残」か、もし実用性重視ということなら、まな板の上でも卓上で使っているナイフと同じような使い方をするためかもしれません。

それは食卓で肉を切るシーンを長年見続けてきたため、ある意味「クセ」のようになった切り方と言うこともできるかもしれません。


ということで、小型のステーキナイフであれシェフナイフであれ、「皿の上で肉を切る」という文化がある国で生まれた包丁は、「反り」が強くなる傾向がありそうです。





余談:日本の包丁の反りが弱い理由と包丁の過去と未来


これも仮説ですが、日本の包丁の反りが弱い理由は、「肉を食べない・箸を使う」という食文化だったからだと思います。

焼いた肉が丸ごと食卓に出てくるわけではないので、食卓では「箸」だけで食べることができました。

「食卓上で肉を切る」という文化がある欧米の場合、ナイフを使うなら反りが強いナイフが必要ですが、台所でまな板を使って料理をするなら、ハンドルを大きく上げたり押して切ったりしなくてよいので、切っ先側の反りが弱くても対応できます。


ちなみに日本人が肉を食べなくなったのは、7世紀ごろに伝来した仏教の影響だとされています(政治やお寺の影響力が及ばない場所の人はずっと肉を食べ続けていたと思います)。

7世紀までは主に野生の鹿や猪などを食べていたようですが、一般家庭には鉄の刃物というものはなく、黒曜石など、「鋭く割れる石」で肉を切っていたと思われます。


日本では明治時代まで1000年以上肉を食べない文化が続きました。

その間、主に魚を切るために進化を続けた包丁が「和包丁」です。

やがて明治になり、肉を食べるようになると洋包丁が普及し、和包丁と洋包丁の長所が融合した三徳包丁や文化包丁が生まれました。

これは多様な食文化に対応するという意味で当然の結果だと言えます。


現在は、肉や魚はすでに解体されたものが切り売りされ、一般家庭での作業は「野菜を切ること」になりつつあります。

また、資源や環境、安全性に対する配慮などから、「SDGs」が意識されるようになり、「汎用性や安全性の高い包丁・寿命が長い包丁」がより強く求められ、実際に包丁はそのように進化を続けています。

もちろんその最先端がユニバーサルエッジです。



以上、「シェフナイフの反りが強い理由」でした。


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