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美しい大根の千切りの方法 前編

更新日:2023年5月14日



YouTubeの初投稿「大根の千切りサラダ」について以下のような質問をいただきました。




「大根をかまぼこ型(ドーム型に切ったもの)の状態から薄切りにするのはなぜですか?この方法だと千切りの長さが変わりますが、長さが揃った方がきれいに見えませんか?」



今回は、この質問の回答を書きます。

私はレストランで仕事をしている際、疑問に思ったことはスタッフたちと実験をしたり、お客様に比較していただいています。

記載内容はほぼ事実だと思いますが、感じ方は人それぞれなので、私個人の意見として読んでいただければと思います。


理由を箇条書きにした「簡単バージョン」と、詳しく解説した「詳細バージョン」を用意しました。

興味がある方は詳細バージョンも参考にしてください。

動画のように、普段私が実践しているのは、野菜の繊維を断つ「横けん」と呼ばれる切り方です。

「横けん」は、切りやすく、水に浸したときの変形がなく、食べ心地が良い切り方です。

「横けん」に対して「縦けん」という切り方もありますが、これらについては「詳細バージョン」で後述します。

※「大根の千切りと言えば桂むきからの千切りが普通でしょ」と思う方もいると思いますので、「桂むきのデメリット」については次回書きます。


では本題です。

「かまぼこ型」から切るのは、以下のような理由があります。



<かまぼこ型から薄切りをする理由>

◎簡単バージョン


1:大根の安定が良いから

2:切り始めの位置決め、切り込み、厚さ調整が楽だから

3:横けんの方が厚さが安定するから

4:食べ心地が良いから

5:水に浸しても形が崩れないから

6:見た目が美しいから

7:千切りサラダに大切なのは長さより太さだから



◎詳細バージョン


1:大根の安定が良いから

輪切りにした大根(1)は転がりやすく不安定ですが、かまぼこ型(2)ならしっかり安定し、切りやすくなります。

輪切りを横にして置く方法(3)は、安定感は悪くないのですが、「縦けん(デメリットは後述)」なので私は採用していません。



1:輪切りにした大根 (不安定)













2:かまぼこ型 (安定する)
















3:輪切りを横にして置く(縦けん)














2:切り始めの位置決め、切り込み、厚さ調整が楽だから

かまぼこ型にすると、包丁の刃先が半円の頂点(中心)に「点」で当たるため、切り始めの厚さの確認が一点だけ見ればできます。 また、点から切り始めるので初期の切り込みが少ない力でできます。 さらに、切り込み初期のうちなら、切りながらでも上から見たときの前後の厚さの調整が可能なので、均一な厚さに切りやすくなります(点から切り始めることで、上から見たヨー方向の微調整が簡単)。 ※私の包丁教室(上級)では、包丁の傾きを「ヨー・ロール・ピッチ」で説明しています

3:横けんの方が厚さが安定するから

「横けん」の方が「縦けん」よりも、「切り心地・安定感」が優れています。 たとえば日曜大工などで体験したことがある人もいると思いますが、木の板を木目に沿った方向で切るとき、木目の硬い部分に浅い角度でノコギリが入ると、木目に影響され、ノコギリの刃の方向が変わってしまうことがあります。 野菜を切るときの「縦けん」も、その現象と似ています。

食材の繊維に沿って切るため包丁の向きが不安定になりやすく、その結果、縦けんでは太さが不揃いの千切りができやすいです。 (良く砥がれた包丁なら、その傾向は弱くなると思います) 「横けん」は繊維の向きにほぼ直角なので切り心地がよく、切っている感覚が手に伝わりやすいです。 そのため、上記「2:」のヨー方向の微調整と合わせて、薄切りの太さを安定させやすくなります。 4:食べ心地が良いから これは私の好みかもしれませんですが、「横けん」で切った千切りは、「食べ心地」が良く、サクサクと噛み切れます。 食べ心地の良さの理由は、木造建築の「柱」を思い浮かべてみるとわかりやすいです。 柱は、野菜で例えると「縦けん」の千切りと同じです。 柱はとても丈夫に作られていますから、縦けんの千切りはゴワゴワとして噛みにくいことがわかります。 逆に「横けん」なら、サクサクと噛み切れる感覚があります。 他の食材で極端に表現すると、縦けんが「きんぴらごぼう」の食感、横けんが「ところてん」の食感です。 以前ツイッターでもアップしたことがありますが、レストランのスタッフ3人で食べ心地の実験をしたとき、3人とも横けんの千切りを選んでいます(事前になにも伝えずテストしました)。 ネット上には「縦けんの方がハリがあってシャキシャキ感がある」と書いているサイトもありますが、私の経験上、そのような表現になったのは、「噛むときの抵抗感をハリと表現している・実験のとき横けんの方が水分量が少なかった」などの理由があるように感じます。 同じ大根を「縦けん」と「横けん」で切り、水に浸す時間も同じにした私の実験では、3人とも「食べ心地は横けんがいい」という結果でした。 下図は、「千切りにした大根1本」の縦けんと横けんのイメージです。 左が縦けん、右が横けんです。 縦けんは「柱」と同じ構造で、繊維が縦に入っています。 横けんと比較すると噛み切りにくいことがわかります。





















5:水に浸しても形が崩れないから ハリやツヤを良くするために、切った千切りを水に浸すことがあります。

縦けんは水に浸すと曲がってしまいますが、横けんは曲がりにくく、盛り付けたときのハリやツヤが良い傾向です。 その結果、おいしそうに見える千切りが完成します。

ですが、ネットで調べると、私の実験結果と逆の情報もあります。 「縦けん」のほうがまっすぐで、「横けん」が曲がるという説明です。 これも本当かもしれませんが、私がユニバーサルエッジで大根の千切りをする際は、横けんで切る方が、曲がりにくいです。

実際に実験をお見せすることもできますので、興味がある方は「包丁なんでも相談室」にお越しください(^^♪ 6:見た目が美しいから 横けんで切った千切りは、太さが安定し、ハリがあって美しいです。 千切りの美しさを決めるのは、「太さ(細いこと)」はもちろんですが、「太さの安定(均一性)」がさらに大切です。 たとえば太さ1㎜~2㎜の千切りサラダと、0.5㎜~5㎜の千切りサラダの場合、両者とも平均の太さが1.5㎜だとしても見た目が全く違います。 美しいのはもちろん前者です。 かまぼこ型にして切ることで、均一に切りやすくなり、「太さの安定」を高いレベルで実現できます。 7:千切りサラダに大切なのは長さより太さだから


かまぼこ型の大根から千切りをすると、長さが不揃いになるのは事実です。

しかし「6:」にも書いたように、千切りサラダの美しさのポイントは、均一な長さではなく均一な太さです。

長さを同じにする必要がない理由は、千切りサラダを立体的に盛り付けるからです。

立体的に盛り付けた千切りサラダは、角度によって一本一本見える長さが違うため、長さを統一しても実感しにくい面があります。

また、長さを揃えるということは、「縦けん」で切ることになります。

たとえば大根を6センチの輪切りにしてまな板の上に乗せて切る方法は、「縦けん」で切ることで全て6センチの長さに揃うのですが、「縦けん」では、上記4と5の説明にあるように、「食べ心地」「曲がり」「太さの不安定さ」という面で気になります。

太さを揃えやすい「横けん」の方が、大根の千切りサラダには適していると言えます。


※YouTubeや調理師学校の実技試験などでは、長さを揃える切り方をすることが多い傾向です

※横けんで長さを揃える方法は「桂むき」からの横けんで可能ですが、桂むきからの千切りはデメリットが多いです



以上です。


最後に、冒頭の質問の答えを短くまとめます。


「大根の千切りサラダを作る場合、かまぼこ型から千切りをする方がメリットが多く、長さの均一性は、大根の千切りサラダには重要ではないから」

です。



桂むきのデメリットについては次回「美しい大根の千切りの方法 後編」で書きます。


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