先日「砥ぎ固定ホルダーはダイヤモンド砥石にも使えますか?」という質問をいただきました。
私は角度固定ホルダーを使いませんが、砥石を買ったときの付属品を持っているので実験をしてみました。
今回は、私が角度固定ホルダーを使わない理由と、角度固定ホルダーとダイヤモンド砥石の実験の結果を書きたいと思います。
まずは実験結果です。
●角度固定ホルダーとダイヤモンド砥石の実験の結果 角度固定ホルダーでダイヤモンド砥石の上を20往復ほどしてみました。 結論から書くと、ダイヤモンド砥石にも使えますが、徐々に角度が浅くなってしまい、いつか使えなくなることがわかりました。 以下が実際の写真です。
砥石に当たる白いセラミック部分が平らになっています。
何回か使った電着ダイヤモンド砥石で実験をしました。
20往復程度でこのように減りました。
新品のダイヤモンド砥石で砥いだらもっと減ります。
角度固定ホルダーは、包丁砥ぎの補助器具で、砥石と包丁の角度を固定するものです。 「トゲール」が有名ですが、同じ機能の製品が各社から発売されています。 角度固定ホルダーのタイプは大きく分けて以下の2つです。 1:樹脂+セラミック
2:ステンレス 実験に使ったのは1です。 写真の角度固定ホルダーの黒い部分が樹脂、白い部分がセラミックです。 砥石に当たる部分がセラミックなので、「セラミック包丁も砥げます」というダイヤモンド砥石の上で移動すれば、削れてしまいます。 通常の砥石に使用した場合は、角度固定ホルダーのセラミックは削れませんでした(その代わりに砥石が多く削れました)。 硬い順に書くと、「ダイヤモンド砥石」→「角度固定ホルダーのセラミック」→「通常の砥石」となります。 2のステンレスの角度固定ホルダーは、検索したところ、貝印の「砥ぎ上手」という製品がありました。 セラミックより柔らかい「ステンレス」の製品なので、「セラミック砥石に使うと減ってしまうのでは?」と想像したところ、「砥ぎ上手そのものも摩耗いたしますが20丁分程度砥げます」と注意書きがあり、良心的だと感じました。
「1回の作業につき数十円のコストがかかる」ということになると思います。
余談:
下記のような宣伝を見つけました。
ダイヤモンド砥石の宣伝ですが、「砥ぎクリップ付き」と書いてあり、樹脂とセラミックでできた砥ぎクリップが付属しています。
「ダイヤモンド砥石はセラミックも砥げる」と宣伝しながら、セラミックの砥ぎクリップを付属しているのは少し矛盾していると感じました。
新品のダイヤモンド砥石だと3回で使えなくなるかもしれません。
「正しい砥ぎ方」として「砥ぎクリップを使う」と書いてありましたが、ダイヤモンド砥石で使ったら、どの砥ぎクリップもすぐに減ってしまいます。
私は、ダイヤモンド砥石には砥ぎクリップはオススメしません。
次に、私が角度固定ホルダーを使わない理由について書いてみます。
細かい話もありますが、興味がある方はお付き合いください。
●私が角度固定ホルダーを使わない理由
1:刃線が乱れる 家庭用包丁の刃線は、アゴから切っ先まで曲線でできています。 直線に見える部分も、実際は「大きな曲線」です。 「切り心地」は、砥ぎの鋭さだけでなく、刃線を作っている曲線の「自然なつながり」も影響します。 角度固定ホルダーを使うと、平らな砥石に包丁の曲線の頂点が当たるため、頂点が削れ、曲線が直線になってしまいます。 視覚的にわかりやすいように、1円硬貨に角度をつけて砥石の上に乗せてみました。 実際の包丁は写真の1円硬貨のように刃線が当たっています。 平らなものに曲線を当てて動かした場合、どの方向に動かしても、曲線が直線になってしまうことがわかります(※)。
※厳密に言えば、金属と同時に砥石側も刃線の影響を受けて削れるため、刃線が完全な直線になるわけではありませんが、直線と言える刃線に近づいていきます
※出刃包丁に角度固定ホルダーをつけて砥ごうとすると、切り刃が砥石に対して「点」で当たっていることが体感でき、そのまま砥ぐと直線になってしまうことが想像しやすいです
角度固定ホルダーを使って平らな砥石で包丁を砥ぐ場合、いくら包丁の角度を寝かしても、砥いだ部分が直線になり、曲線であるべき刃線が直線の集まり(多角形)になってしまいます。
極端に言うと、長く砥ぐとほぼ直線のような刃線になってしまう包丁もあります。
仮に刃線が完全な直線になってしまうと、まな板と包丁の接点が「点」から「線」になり、家庭用包丁としての作業性が悪くなります。
備考:
・連続した動きを使えば、ある程度滑らかな曲線で砥ぐことができます
・例外的に、和包丁などの「裏スキ」がある片刃包丁は、裏面をベタ砥ぎすることで刃線を乱さず砥ぐことができます
「刃線が乱れる」、私が角度固定ホルダーを使わない主な理由はこれですが、他にもいろいろな理由があるので書いてみます。
2:従来の砥ぎ方(三段砥ぎ)の最中の付け直しのときに角度が微妙に変わる
従来の砥ぎ方は、刃線全体を3カ所に分けて砥いでいるものが多いので、私は「三段砥ぎ」と呼んでいます。
※「荒砥→中砥→仕上げ」の三段階、という意味ではありません
包丁の多くはアゴ付近と切っ先付近の刀幅(身幅)が違います。
砥ぐ場所を変えるときは角度固定ホルダーを移動しますが、そのとき角度固定ホルダーを峰までしっかり差し込むと、切っ先側の方が角度が鈍角に砥がれるように固定されてしまいます。
何ミリの刀幅に対してどの場所に角度固定ホルダーを固定したらよいのかわからず、微妙ですが、必ずその部分の研ぎ角が変わり、その変化に私は違和感があります。
※だいぶ前のことですが、GLOBALの重鎮と言われた「MINO」さんが、角度固定ホルダーを使った実演をしていた動画がありました。
MINOさんの使い方を見て「なるほど」と思った記憶がありますが、私は当時からシームレス砥ぎをしていたので、ホルダーを使った砥ぎ方を覚えることができませんでした。
3:砥ぎ角が何度かわからない
何度で砥いでいるかわからないことも不安です。
たとえば、藤次郎や貝印が販売している角度固定ホルダーは、自社製品の主力包丁の砥ぎ角に合わせた設定で売られていると思いますが、「トゲール」などの有名な角度固定ホルダーが、どの包丁を何度で砥ぐために作られたものかわかりません。
「15度で砥いでください」という指定がある包丁をトゲールで砥いだ場合、包丁の刀幅や、角度固定ホルダーをセットする場所によって砥ぎの角度が変わります。
仮に、包丁のもともとの砥ぎ角より浅い角度で砥いでしまった場合は、しのぎから砥ぐことになるためなかなか刃が付かず、「かえり」が出るまでに時間がかかります。
これは余談ですが、角度固定ホルダーは多くの包丁に対応するため「鈍角」の設定で販売されているはずです。
例えば片側18度の設定だとした場合、両刃だと36度になってしまい、砥ぎ角が鈍角になるので、切れ味や切り込み抵抗の軽さなどが損なわれる可能性もあります。
4:任意外の角度で固定されてしまう
挟んだ部分で砥ぎ角が固定されてしまい、「何度で砥ぎたい」という自由な角度が設定できません。
5:刀身の幅が狭い包丁は角度が鈍角になりすぎる
私はペティナイフや筋引きのような刀身の幅が狭い包丁は使いませんが、
仮に角度固定ホルダーを使って砥ぐ場合、角度が付きすぎないか心配です。
6:取り付け作業が不安
強い力で挟むので、取り付けのときになんとなく手が滑りそうで怖いです。
7:砥石との接触部分で砥石がより多く削れてしまう セラミック砥石で使ってみたところ、普段よりも多く砥石が削れることがわかりました。 接触部分が砥石より硬い「セラミック」のため、砥石が多く削れているからです。 修正砥石のように表面を削る効果がありますが、問題は、修正砥石のように、砥石の端までしっかり削れないことです。 つまり、砥石の真ん中だけがたくさん凹んでしまうことになります。 長く使うとかなり減るような気がしました。
また、上にも書いたように、ダイヤモンド砥石で使う場合は角度固定ホルダーが削れてしまうため、やはり抵抗があります。
8:包丁に傷がつく可能性がある
とても強い力で挟み込むため、刀身に傷がつく可能性があります。
特に貝印の「砥ぎ上手」という製品は、ステンレス製なので、付け外しの作業に注意が必要です。
9:使い方がよくわからない 使い方動画を見ても詳細がよくわからない部分があります。
やはり初めに書いた通り、どのようにして曲線をキープするのかわからないため、使うのが面倒になってしまいます。
角度固定ホルダーは、刃先が薄く刃線がまっすぐな包丁には便利です。
しかし一般家庭にはそのような包丁はほとんどありません。
「薄刃包丁」や「そば切り包丁」は刃線がまっすぐですが、刃の厚みがあるので、角度固定ホルダーがなくてもベタ砥ぎができます(テーパーつきの刀身はベタ砥ぎすると切っ先に向けて切り刃の幅が狭くなります)。
出刃などの裏押しがある包丁は、裏面のベタ砥ぎで美しい刃線を保つことができるので、角度固定ホルダーは無用です。
以上、私が角度固定ホルダーを使わない理由についてでした。
●砥ぎ補助グッズのアイデア
私は現在、上記1~9のデメリットをほとんど解決した「砥ぎ補助グッズ」のパテント登録を準備しています。
刃線が乱れず、砥ぎ角も乱れず、砥ぎ角を10度~20度で任意で設定でき、ペティナイフも含めて家庭用包丁のほとんどに対応し、安全で使い方も簡単です。
また、既存の砥石で使うことができ、セラミック砥石もダイヤモンド砥石も傷めることなく、補助グッズ自身を傷めることもありません。
もちろん包丁に傷はつきません。
これまでの角度固定ホルダーは、「しならない包丁・吸水性のある砥石」が前提で作られていましたが、私が考えている補助グッズは、「しなる包丁(現代の包丁)・吸水性のない砥石(現代の砥石)」だからこそできる便利なアイテムです。
パテントの申請が認可されたら概要をお知らせします。
※共同開発に興味がある企業様は下記までご連絡ください
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