大根の千切りの動画です
5分以上あるので、本文を読んでみて興味があったら見てみてください
動画のような大根の千切りに挑戦した方から、「切り離れ(キリバナレ)が悪いときはどうすればいいですか?」という質問をいただきました。
切り離れの悪さは、千切りをしたときだけでなく、「長ネギの小口切り」や「キュウリの輪切り」、「肉の切り分け」などでよく見られます。
飾り切りなどで意図的に切り離れないように切ることはありますが、切り離したいのに切り離れが悪いと、作業性が落ちたり、見た目が悪くなったり、人によってはストレスになってしまいます。
ちなみに「刃離れ(ハバナレ)」と「切り離れ(キリバナレ)」は違います。
刃離れは、切った食材が包丁にくっつかないこと、切り離れは、食材同士がくっつかないことです。
※「刃離れ」と「切り離れ」の違いについて詳しくはコチラ
◎食材が切り離れない理由
切り離れが悪いのは、下記のようなことが原因です。
●包丁のアゴ側の刃線のへこみ
●包丁を砥いでいない
●食品の奥行きの長さ
●まな板のへこみ
●まな板の硬さ
●包丁のアゴが浮いている
●包丁を変えたばかり
●作業台の高さ
余談:
●肉が切り離れない場合
●おまけの動画
以下説明です。
●包丁のアゴ側の刃線のへこみ
包丁のアゴ側の刃線のへこみは、主に「簡易シャープナー」や「砥ぎ棒」で砥いでいる包丁に起こる現象です。
アゴ付近の刃線がへこんでいると、アゴ付近を使った作業での切り離れが悪くなります。
へこみがなくなるまで砥ぎ直すことで切り離れが良くなります。
刃線を直すには、「砥石を使う」「砥ぎサービスに出す」などの方法があります。
※新品の包丁に買い替えることも対策のひとつですが、SDGsの視点や費用対効果を考える必要があります。
アゴ付近の切り離れが悪いと「スライド切り(アゴ付近を使った切り方)」が使えなくなります。
スライド切りは安全で効率の良い切り方なのですが、アゴ付近の切り離れが悪くなると、切り離れを確保しようとして切っ先側でスイング切りをするようになります。
アゴの刃線がへこむと包丁とまな板の間に隙間ができ「スライド切り」ができなくなり、
そのため切っ先側を使ったスイング系の切り方になる

参考までに、以下、4種類の切り方の動画です。
「スライド切り」と「スイング切り・スライドスイング切り」の動きに注目してください。
スライド切りは、トントントンとリズムよく切る方法で、野菜を刻むときの合理的な切り方ですが、アゴ側の刃線が乱れるとスライド切りは使えなくなり、切っ先寄りのソリを使ったスイング系の切り方になってしまいます(動画は全てアゴ側を使って切っています)。
※切っ先を使うとスイング系の切り方になるのは、切っ先側が直線ではないからです
※野菜を刻む作業はスライド切りのほうがメリットが多いです
4種類の切り方
●包丁を砥いでいない
食材を切り離すには、食材を切ったとき、包丁の刃先がまな板に触れるまで切る必要があります。
特に、ネギのような食材はしっかり切らないと切り離れません。
包丁を砥いでいないと、「刃欠け・刃つぶれ・摩耗による刃先の劣化」などによって切り離れが悪くなっていきます。
刃先が大きく刃欠けしたり、つぶれたりしていると、いくら切れ味が良い刃先でも刃先の一部はまな板につきません。
また、刃先が丸ければ切り込み抵抗が増えたり、食材をつぶしたりしていしまい、刃先がまな板まで到達しにくくなります。
刃先が摩耗していれば、切り離れ以前の問題です。
「刃欠け・刃つぶれ・摩耗による切れ味の低下」の対策は、「よく砥ぐこと」です。
下図は、横から見た図と丸くなった刃先と食材の関係図です。
図で見るように、刃がまな板に当たっていないので、包丁を前後に滑らせないと切り離れなくなります。
完璧なスライド切りとスイング切りでは、理論上刃先はまな板の上をほとんど滑りませんから、食材は切り離れません。

確認のため、「刃欠け・刃つぶれ・摩耗による切れ味の低下」の違いについて書
きます。
「刃欠け」は、刃先の一部が衝撃によって欠けてしまうことです。
セラミックやハガネなどの硬い鋼材で起こりがちです。
欠けた部分の切れ味が悪くなります。
※欠けた「破片」が、食材に入っている場合がるので注意が必要です
紙を切ると明らかに刃欠けの部分で引っかかりますが、刃欠けしている部分以外は切れ味が良いので気持ち良く切れます。
「刃つぶれ」は、例えば刃先をシンクの角にぶつけてしまい、刃が欠けずに、刃線がへこんでしまう現象です。
粘りのあるステンレス素材の包丁に起こりやすいです。
つぶれるだけなので金属の破片は出ませんが、刃がつぶれた部分は刃線がへこんでしまうため、刃欠けのある包丁と似た切れ方になります。
紙を切ると、刃つぶれの部分で引っかかりやすいですが、他の部分は気持ち良く切れます。
※刃欠けや刃つぶれがあって切り離れない状況というのは、まな板の上で刃先を滑らせることのない「完璧なスライド切り」か、切っ先をつけたままハンドルを上下させる「完璧なスイング切り」で起こりやすいです。
「摩耗による切れ味の低下」は、目立った刃欠けや刃つぶれがなくても、刃先全体が摩耗して、丸みを帯びてしまった状態です。
紙を切ってもなかなか切れず、刃線全体の切れ味の悪さがよくわかります。
●食材の奥行きの長さ
包丁の刃線は曲線の組み合わせになっているため、食材の奥行きが長いと切り離れが悪いことがあります。
対策は、切っ先からアゴまでを使った「スイング切り・スライドスイング切り」で、切っ先からアゴまでの刃線がしっかりまな板に触れるように切るか、ハンドルを持ち上げてまな板に切っ先をつけ、「切っ先の引き切り」を使うことです。
上から見た図
アゴから切っ先まで奥行がある食材

横から見た図
切り離すには包丁をスイングさせるか切っ先の引き切りが必要

●まな板のへこみ
まな板がへこんでいると、その部分の切り離れが悪くなります。
柔らかめの木のまな板を長く使っていると、刃が当たる部分がへこみます。
その部分で食材を切った場合、切り離れが悪くなることがあります。
対策は、「場所を少しずらして切る・裏側を使って切る」などです。
それで解決すればまな板が原因だとわかります。
へこんでいる部分を平らにすることが一番大切ですが、木のまな板の修正には時間と費用がかかるため、修正のいらないポリエチレン系のまな板に買い替えることをオススメします。
まな板がへこんでいると包丁との間に隙間ができる
切る場所を少しずらすことで解決できる場合がある

●まな板の硬さ
まな板の硬さによっても切り離れが変わります。
柔らかくすると包丁の刃がまな板に食い込みやすくなり、硬いまな板と比較して刃離れする確率が底上げされます。
イメージとては、ガラス板とゴムのまな板の違いです。
ガラス板には包丁の刃先は食い込みませんが、ゴムのまな板には刃先が食い込み食材が切り離れやすくなります。
また、柔らかいまな板は、作業の音も静かで包丁の刃先や手首の負担も軽減されるので、切る作業が楽しくなります。
私は様々な理由から、樹脂製のまな板をおススメしています
オススメのまな板についてはこちら
●包丁のアゴが浮いている
包丁のアゴ側で切っているとき(スライド切り)にアゴが浮いていると、食材の手前側が切り離れません。
対策は、ホームポジションを覚え、反復練習をすることです。
練習方法は、以下のように、キュウリの輪切り、または半月切りがよいと思います。
以下の動画のようにフォームが安定すれば、アゴが浮かず刃線がまな板にぴったりついているので切り離れます。
キュウリの半月切り(スライド切り参考動画)
わかりやすいフォームでゆっくり切りました
※ホームポジションについてはこちら
●包丁を変えたばかり
違う包丁に持ち変えたばかりのときは、ハンドルの角度や刃幅の違いに慣れるまで切り離れが悪くなります。
まな板の上に乗る刃線の角度が以前の包丁とは違うためです。
特に中華包丁からシェフナイフに持ち替えたときは、刃幅のある中華包丁の感覚のまま切るとアゴが浮いてしまい、切り離れが悪くなります。
対策は、新しい包丁でホームポジションをしっかりとり、以前の包丁と比較してハンドルの立ち角や刃幅がどう違うか確認し、ホームポジションで落ち着いた角度を保つように意識して切ります。
意識して切っているうちに徐々に切り離れが良くなります。
●作業台の高さ
・作業台が低い場合はアゴ側が切り離れにくい
普段より作業台が低い場合、包丁のハンドル側がまな板から離れがちになるので、食材の手前側の切り離れが悪くなります。
作業台が同じ高さでも、靴のヒールの高さによって切り離れが悪くなることがあります。
たとえば普段はサンダルという人が、高いヒールを履いて食材を切ると、手前側の切り離れが悪くなります。
作業台が低い場合の対策方法は、アゴをまな板にしっかりつける切り方(切っ先を上げる切り方)を意識するか、足を大きく開いて自分の身長を下げる方法があります。
・作業台が高い場合は切っ先側が切り離れにくい
低い場合の逆で、切っ先側が浮きがちになり、食材の奥の方の切り離れが悪くなります。
あまりないかもしれませんが、普段から高いヒールつきの靴を履いて食材を切っている人がスリッパに履き替えると相対的に作業台が高くなり、奥側の切り離れが悪くなると思います。
どこかに訪問したとき、訪問先のキッチンの高さが高い場合も切り離れが悪くなります。
対策方法は、「適当な高さの台に乗る」、または意識して切っ先を下げて切る(意識してアゴを上げるでも可)ことです。
余談:
●肉が切り離れない場合
肉類は、切り始めは軽く押しながら切るとしても、最後に切り離すときは「切っ先の引き切り」で切ります(押しながら切り離すこともできます)。
包丁の刃線がまな板に触れた状態のまま移動するため、刃線のへこみや刃欠け、刃つぶれ、まな板のへこみがあっても切り離すことはできますが、筋や軟骨などの硬い部分が切れないまま残り、最終的に切り離れないことがあります。
これはほとんどの場合「刃先の摩耗」が原因です。
一番の対策は、もちろん包丁を砥ぎ直し、切れ味を良くすることです。
特にソリの部分の切れ味を良くすることで解決できると思います。
次にできることは、刃渡りを長く使うことと、引く行程のときに少しだけ下向きの力を強くして切ることです。
さらに次にできるのは、包丁をもう少し寝かすことです。
ただし、包丁を寝かそうとすると下向きの力が抜けやすくなるので、下向きの力を意識したまま寝かすのがポイントです。
「砥ぎ直し、刃渡りを長く使い、包丁を引くときに少し下向きの力を強くして、包丁を寝かす」、これができれば切り離れるはずです。
以下、皮つき鶏もも肉を切り分ける動画です。
皮を上にする理由は、皮を直接おさえることで、皮がズレたり剝がれたりするのを防ぐためです。
皮が下だと皮がまな板にくっついてしまったり、肉を移動するときにはがれてしまったりするのでお勧めしません。
皮つき鶏もも肉
皮つき鶏もも肉は、一般家庭で切る肉の中では切るのが難しいと感じる方が多いですが、切り離れを意識すれば動画のように切ることができます。
皮がずれていないこともわかると思います。
●おまけの動画
アゴ側のきれいな刃線・平らなまな板・使い慣れた包丁・普段の作業台の高さ・安定したフォームなど、切り離れの条件が全て揃うと、以下のように切っても良好な切り離れになります。
手首の引き切りでキュウリの半月切り
わかりにくいですが全部切り離れています(「運が良かった」とも言います^^)

以上、食材が切り離れない理由と対策でした。
参考になればと思います。