日本製と中国製 ―家庭用万能包丁の品質の違い―
- tihal86
- 6 日前
- 読了時間: 9分
更新日:2 日前
「中国製の包丁の品質」について質問されることがよくあります。
主に「家庭用万能包丁」という限られたジャンルの話なのですが、以下の見出しに沿って書きます。
中国製の包丁の品質について考えるヒントになればと思います。
◎実際の品質の違いは?
◎日本の販売店が中国製品を売っている
◎中国製の方がコスパが良い?
◎日本のメーカーが自社製品として売っている
◎日本が鍛えた職人が作っている可能性
◎日本製の方が良いイメージなのはなぜ
◎ユーザー本位という考え
◎やる気があるかないか
◎機械による自動生産
◎中国の熱意
◎どこまでが中国製なのか
◎国際的な認識
◎弊社の方針
◎動画紹介
◎まとめ
・・・
◎実際の品質の違いは?
結論から書くと、
「大きな違いはない」
という印象です。
「中国製の包丁は品質が悪い」と思っている人が多いかもしれませんが、最近は品質に大きな違いはなく、コスパで言えば中国製の方が優れている場合もありそうです。
◎日本の販売店が中国製品を売っている
包丁の販売店が必ず中国製を併売しているとは限りませんが、日本には中国製の包丁を販売している店もあります。
仮に中国製の包丁が低品質なら、低品質なものを売る販売店の評判に関わる問題になります。
日本製と比較しても大きな差はないということや、次に書く「コスパ」の面も含め、「日本での販売に値する品質」ということだと思います。
◎中国製の方がコスパが良い?
中国製の包丁は、日本製と同等レベルのものが半額以下で買えることがほとんどです。
仮に中国製の包丁の品質が悪く、買い替え頻度が2倍だとしても、価格が3分の1なら、コスパが良いことになるかもしれません。
また、価格が半額以下なら、同じ包丁を2丁買い、一方は両刃、一方は片刃に砥ぐことでもコスパが良くなると言えます。
「品質」が多少落ちるとしても、コスパでカバーできてしまう面があることはメリットのひとつです。
みなさんの家に中国製のものがあるなら、それはきっと「安い・意外と使える・これなら納得」など、「品質」よりも「コスパが良いから」という理由で買ったものがほとんどだと思います。
備考:
1年前、スイスのビクトリノクスの店舗では、日本で5千円程度の万能包丁が1万円でした。
逆に中国では、日本で5千円のものが半額以下で買えると思います。
同じ商品でも購入方法によって「価格差」があるので一概には言えないのですが、日本の万能包丁の価格帯は「欧米と中国のほぼ中間」という印象です。
◎日本のメーカーが自社製品として売っている
日本の主要な包丁メーカーの中には、中国製の包丁を輸入し、自社製品として販売しているメーカーもあります。
これは中国製の包丁の品質が悪くないことの証明のひとつと言えます。
◎日本が鍛えた中国の職人が作っている可能性
日本の包丁メーカーの中には、「コスト削減」のひとつとして、「中国で作り日本で最終仕上げをして日本製として販売する」という方法をとっているメーカーもあります。
その場合、日本での販売に耐える品質を維持するために、日本の職人が中国人に技術を「伝授」します。
中国で日本の技術を受け継いだ職人たちが独立し、包丁を作って販売すれば、日本との品質の差は少なくなります。
◎日本製の方が良いイメージなのはなぜ
日本人だけでなく、中国の国民も「日本製の方が良い」と信じている傾向があります。
その理由は一概に言えないのですが、「政治・経済・製品・民間交流」など、様々なジャンルで中国に関するマイナスイメージのニュースが報道される頻度が多く、メディアによって「日本の方が良い」というイメージが作られているからかもしれません。
また、ネット上では中国製品を意図的に高評価する「サクラ行為」や、注文と違う商品が届くなどのトラブルがあり、中国製品の信用が下がっているという面もあります。
さらに、日本が中国の製品を模倣するよりも、中国が日本の製品を模倣するパターンが多いため、日本製が優れているというイメージが強く残るということもあります。
包丁の世界に限って言えば日中の品質の差が縮まっていることは間違いないと思いますが、上記の要因によって日本製の方がいまだに好印象を保っていると思われます。
備考:現実としてどうか
私が包丁の使い方を教えたたくさんの研修生の中には、複数の中国人もいました。
「手首の引き切り」の練習で一番飲み込みが早かったのは20代の中国人女性で、性格も穏やかでやる気もあり好印象でしたが、逆に、感情に素直で、特に食事のマナーに違和感を感じた中国人もいました。
「時間や約束を守らない・スケジュールを変更する」などのマイナス面も気になることがありましたが、それは国が変わってもあり得ることで、日本も例外ではありません。
みなさんも日々経験しているように、日本にも、不誠実な人や会社はもちろん存在します。
日本製と中国製を比較しなければならないなら、日本製の方が良いイメージというのはたしかにあると思いますが、話は単純ではないと思います。
◎ユーザー本位という考え
日中どちらのメーカーにも、「ユーザー本位」という建前がありますが、それを実践しているメーカーが多いのはどちらの国でしょうか。
「ユーザー本位」を本気で追求している包丁メーカーは日中どちらにも存在します。
そしてそんなメーカーが、国を超えて高品質な包丁を世に送り続けることになると思います。
◎やる気があるかないか
「やる気があるかないか」というのは、仕事に対するモチベーションや志が高いかどうかということです。
「日本人は品質が高いものを作ろうとする国民性がある」と言われることがありますが、必ずしも日本人全ての志が高いわけではありません。
そもそも個人的な人間性として仕事に対する志が高い人は、日本だけでなく中国にもいます。
「人間性」を考えたとき、やる気のある人が働く中国のメーカーは、品質の高い包丁を生み出す可能性は高いと思います。
◎機械による自動生産
上記までは、包丁作りは手作業がメイン、つまり「職人の技がメイン」という前提ですが、現在は機械での自動生産も可能です。
包丁の自動生産として日本で印象的なのは、「KISEKI:」という家庭用万能包丁で有名な「福田刃物株式会社」です。
「脱職人」というテーマのもと、新入社員でもボタンひとつで包丁を作ることができるそうです。
自動生産の長所は、なんと言っても「品質の安定」です。
職人の体調の変化や感覚の変化による品質の乱れがありません。
以前福田刃物の社長とお会いし、お食事をご一緒したときのお話の内容、そして工場見学も「感動」のひとことでした(社長やスタッフの元気さや明るさが印象的でした)。
どこまでが機械でどこまでが職人の手によるのか、その割合は様々かもしれませんが、中国でも自動生産は始まっていると思います。
多くの人が使う家庭用万能包丁では、「品質の安定」は重要なことなので、「自動化・脱職人」は大切だと思います。
◎中国の熱意
弊社が関わったメーカーに限ったことかもしれませんが、中国の「すごい」と思うところは、「対応スピード」「大量生産」「価格」、そして「熱意」です。
大量生産が可能で対応スピードも速く、こちらからの問い合わせに対して数日内に返信があるだけでなく、材料証明書や工程手順表、包丁の図面の請求に対しても数日内に返信がありました。
包丁の刃渡りや刀身の形の変更に対しても、書き直された図面が数日内に返送され、日本では数か月かかるか、または対応してもらうことができない内容が1週間で終了することもあります。
価格は日本と比較してとても安価で、品質は少なくともサンプルの段階では日本製と大きな差はありません。
毎月1000丁以上の生産ペース(年間1万丁以上)も可能だそうです。
これらの対応を経験し、中国メーカーの仕事に対する熱意に感動したことがあります。
※2025年の春、実際に中国産の最新の包丁を見たのですが、値段と品質のバランスに驚き、日本の包丁メーカーが自社製品として販売する理由も理解できました
◎どこまでが中国製なのか
日本の法律では、基礎になる包丁を中国で作り、最後に日本で刃付けした場合、日本製として販売することができるそうです。
「製造国表記」の基準になるなにかを決めなければならないことはわかりますが、この制度は日本製なのか中国製なのかわかりにくくなり、結果的に「差がない・差がわからない」ということになるかもしれません。
◎国際的な認識
「世界3大刃物生産地」として有名なのが、イギリスのシェフィールド、ドイツのゾーリンゲン、そして日本の岐阜県関市です。
日本は国際的にも質の高い包丁を作る国として知られています。
確かに品質だけを見れば日本製の平均点が高いと言えるところもありますが、現実は、職人の高齢化による仕事への士気や作業精度の低下、さらに言えば後継者不足で刃物関係の事業所が減少しているなど、職人の手作業に依存した状態が続く限り、包丁の品質が向上する動きは鈍化する傾向です。
後継者がいない理由は様々ですが、主な理由はおそらく「業界内に仕事を楽しんでいる先人が少なく、優秀な若者たちが刃物業界に対して興味を感じない」というものだと思います(※前述した「福田刃物」のように、社長も社員も仕事を楽しんでいる急成長中の企業もあります)。
それに加え、「中国がコスパの良い商品を作れるようになったから」という事情によるものもあると思います。
国際的には、包丁ユーザーは「日本製と中国製には品質の差がある」と認識し、包丁作りの現状を知っている人は、「日本製と中国製の品質の差はなくなりつつある(差はない)」と認識している印象です。
◎弊社のこだわり
株式会社Yuiのこだわりは「しなる・刃渡り180㎜〜195㎜の牛刀・刃離れが特徴のユニバーサルエッジ」であることで、「家庭用万能包丁としての品質が保たれていれば、日本製も中国製も問題ない」と考えています。
◎弊社の方針
現在販売しているユニバーサルエッジの「PROCEED」は「純日本製」の包丁です。
2024年、PROCEEDで切る「紫玉ねぎのみじん切り」の動画がインスタグラムで1億回以上再生されたのを機にテレビや新聞の取材が相次ぎ、日本国内だけでなく世界中から大きな反響がありました。
そのため、日本の包丁メーカーにユニバーサルエッジの製造を呼びかけたのですが、様々な事情で純日本製の増産は困難でした。
今後弊社では、純日本製のユニバーサルエッジの増産も探りつつ、一方でユニバーサルエッジのベースになる包丁を海外で生産し、日本でユニバーサルエッジの刃付けと4つの安全装備の仕上げをして販売することを視野に入れています。
◎動画紹介
最後に興味深い動画をご紹介します。
「日本製と中国製の包丁の品質の違い」と入力して検索したところ、AIが選んだオススメの動画の上位にあったものです。
「和包丁」の世界の話なのですが、みなさんはどのように感じるでしょうか。
中国製の包丁の高品質化に刺激を受けることで日本の包丁がさらに進化し、品質向上の好循環が生まれたら素晴らしいと思います。
動画:「中国製の飛躍は驚異的!?」
◎まとめ
2025年現在の日中の家庭用万能包丁に言えることをまとめると、以下のようになるかと思います。
日本製は「伝統・職人の思い・少量生産・手作り・高価」
中国製は「革新・合理化・大量生産・自動化・安価」
「中国製の包丁は低品質」とお考えの方も多いかもしれません。
しかし実情は、大きな差はなくなってきたのではないかと感じます。
以上です。