「きゅうりの輪切り」など、薄く切った食材が包丁にくっつくと、まな板からきゅうりが転がって落ちたり、切るときのじゃまになったり、次の作業の前に並べ直しが必要になったりして作業効率が落ちます。
できるだけ薄く切った方が良いとわかっていても、食材を包丁からはがすのが面倒で薄切りをしなくなったり、厚く切ったりしてごまかす場面もあるかもしれません。
くっついた食材を「包丁からはがす・並べ直す」という作業は、場合によっては握っている包丁をまな板に置く必要があり、作業のリズムが崩れるときもあります。
また、下図は3~4㎜程度の薄切りの図ですが、切った食材が包丁から離れないということは、食材が左右から包丁を挟んでいることになります(上)。
刃離れが良いと摩擦抵抗が半減します(下)。
刃離れの良い包丁と比較すると、単純に2倍の摩擦が生まれるため、作業時の疲労が増します(刀身の断面形状によっては食材との摩擦が軽減されるものもあり、高価な包丁ほどその傾向があります)。

◎刃離れが大切な理由
上記のような理由から、料理の効率を上げる要素として「安定した刃離れ」が重要になり、作業内容によっては、「切れ味の良さ」よりも「刃離れの良さ」が求められる場面もあります。
一般家庭では、刃離れが悪いと薄切りや千切りに時間がかかるため、繊細な作業を避ける傾向になります。
また、薄切りや千切りをするとしても、スピードを上げるために厚く切ったり、くっついた食材を並べるのが面倒だと感じたりするため、極論すれば「ぶつ切り」ばかりの料理になりがちです。
逆に言えば、刃離れの良い包丁を使うと切る作業が楽しくなり、繊細なものを作りたくなります。
繊細な仕上げの食材を見ると、食べる側も感動してくれるため、さらに料理が楽しくなるという相乗効果も生まれます。
ということで、刃離れが大切な理由は「作業効率の向上のため」なのですが、結局のところ、「みんなの笑顔を生み出すから」です。
このことはユーザーだけでなく包丁メーカーもよくわかっていて、刃離れ効果の高い包丁を作る努力を続けています。
◎刃離れ効果を意識した包丁の現状
ユニバーサルエッジは刃離れ効果を意識した新しいタイプの包丁ですが、以下、刃離れ効果を意識した「既存の包丁」について書きます。
これまでに「刃離れ効果・くっつきにくさ」を追求して開発された包丁は、大きくわけて「ディンプル・穴あき・リブ」の3種類があります。
この3種類の包丁は、それぞれ毛細管現象を低減し、刃離れ効果を上げるために作られたものですが、宣伝ほどの効果はなく、メリット以上のデメリットがあり、家庭での主流にはなっていません。
※上記3種類以外にも「低摩擦コーティング系」の包丁もありますが、低摩擦系の包丁はくっつくことが大前提になっていて、くっつく強さ(摩擦の強さ)を低減させる効果を発揮する加工です。
「どうせ刃離れしないなら、せめて摩擦を減らそう」という考え方で、厳密には「刃離れ効果」ではないのでここでは触れません。
また、刀身自体を波型にし、食材が包丁に線で触れるようにして毛細管現象を軽減するタイプの包丁もありますが、これはいろいろな面で特殊なためここでは触れません。
以下、通常の包丁と比較して、「ディンプル・穴あき・リブ加工」の包丁のメリットとデメリットを書いてみます。
<ディンプル加工の包丁>
利き手側だけの片面ディンプル(利き手用)と、左右両面ディンプル(左右兼用)の2種類があります。
写真はグレステンの右利き用です。

・メリット
くっついた食材を剥がしやすい(付着面積が少ないため・くっついている食材の面圧に揺らぎがあるため)
・デメリット
汚れが溜まりやすい(不衛生)
価格が高価な傾向がある(ディンプル加工の費用)
掃除が面倒(メンテナンス性の問題)
片面ディンプルの場合は、利き手を選ぶ(両刃の利点がなくなる)
両面ディンプル加工の場合は、左手の指が不自然な感覚になる(猫の手のときに指の関節が当たり違和感がある)
チーズやハムなど弾力がある柔らかい食材を切るときに、ディンプルの仕上げが雑な包丁の場合、ディンプルの角で食材の断面に傷が入る場合がある(片面ディンプルの場合は食材の左側、両面ディンプルの場合は食材の両面)
<穴あき加工の包丁>

・メリット
くっついた食材を剥がしやすい(付着面積が少ないため・くっついている食材の面圧に揺らぎがあるため)
・デメリット
汚れが溜まりやすい(3つの中で最も不衛生)
穴の仕上げが丁寧な場合は費用が高価な場合がある(研磨費用がかかる)
穴の仕上げが雑な場合は穴の角で左手の指をケガする可能性がある(ダイソーの穴あき包丁は指が痛いです)
掃除が面倒(3つの中で最も面倒)
チーズやハムなどの弾力がある柔らかい食材を切るときに、穴の角で食材の断面に傷が入る場合がある(食材が穴に少し入るため)
刀身に食材を乗せると小さな食材が穴から落ちる(みじん切りや万能ねぎの小口切り)
<リブ加工の包丁>
刃線に沿って出っ張りをつけた刀身の包丁です。
(写真がないので検索してみてください)
・メリット
くっついた食材を剥がしやすい(付着面積が少ないため・くっついている食材の面圧に揺らぎがあるため)
・デメリット
汚れが溜まりやすい(不衛生)
掃除が面倒(メンテナンス性)
利き手を選ぶ(利き手側にリブがつくため両刃の利点がなくなる)
切り込み抵抗が増える(リブによって利き手側の厚さが増えるので、高さのある食材を切るときに片刃のような切り込み抵抗が生まれ、両刃のメリットがなくなる)
<穴あきとリブの複合加工の包丁>

穴あきとリブの両方を備えた包丁もあります。
・メリット
くっついた食材を剥がしやすい(付着面積が少ないため・くっついている食材の面圧に揺らぎがあるため)
・デメリット
上記穴あきとリブのデメリットを合わせたものです。
刃離れ効果が少し上がると思いますが、逆もしかりで、穴あきとリブのデメリットも兼ね備えてしまいます。
不確実な刃離れ効果に対して明らかなデメリットが多く、メリットとデメリットのバランスが悪いため私はオススメできません。
◎動画
「刃離れ効果・くっつきにくさ」を意識して作られた包丁の切れ方です。
既存のものでは刃離れ効果が弱いこと、そしてユニバーサルエッジの刃離れの安定感を感じていただけると思います。
画面左の4つの包丁が既存の包丁、右がユニバーサルエッジです
◎考察
包丁は、穴や出っ張りなどの凹凸がない方が、洗いやすく衛生的です。
しかし刃離れを重視すると凹凸が増え、デメリットが増えてしまいます。
既存の3種類の包丁は刃離れが安定していないので、その「不安定な刃離れ」と引き換えに、利き手を選んだり、不衛生だったり、指が痛かったりするのでは、ユーザーは敬遠します。
刃離れの問題が未解決のまま今に至っている最大の理由は、「両刃」という枠の中で刃離れ効果を追求するからです。
現在、「両刃」という枠の中で作られる「刃離れ系」の包丁は、考えられるほぼ最終的な構造になっていて、今後さらに進化する可能性は低く、開発をしていない包丁メーカーもあります(凹凸をつけずに両刃で刃離れを実現するためのアイデアがあるのですが、実験にコストがかかるため、実験結果のお知らせはいつになるかわかりません)。
一方、動画にもあるように、ユニバーサルエッジは実用新案3227805号の刃付け(片刃)を取り入れ、「刃離れ効果が高く、デメリットが少ない包丁」として誕生しました。
今後一般家庭にユニバーサルエッジが普及することで、世界中に笑顔が広がれば嬉しいです。