「包丁の常識を疑う」シリーズ 【第2回】「切れ味」は何で決まるのか?
「切れ味抜群」
・・・包丁の紹介で見かける言葉です。
では、その「切れ味」は何で決まるのでしょうか。
多くの方は、「鋼材が良いから」「高価だから」「職人が作ったから」そんなイメージを持っているかもしれません。
もちろん、それらも大切です。
しかし、実は「切れ味」はもっと多くの要素が組み合わさることで決まります。
今回は、「切れ味」について書きます。
「切れ味」を決める要素は無数にあるのですが、その中でも基本となる「切れ味の4要素」について書きます。

「切れ味が良い」というのは、細かい話を抜きにして書くと、「いかに少ない力で切れるか」と言い換えることができるのですが、食材の表面を切るときの切れ味が良いのか、切り離すときの切れ味が良いのかというのは、それぞれ要素が違います。
表面の1ミリだけでよいなら、両刃や片刃、刃の厚さなどに関係なく、刃先を鋭く砥ぐほど切れ味が良いと感じる傾向があります。
また、大根などの硬い野菜を気持ち良く切り分けようとするなら、刀身が薄い両刃の包丁が優れています。
以下、4つそれぞれのパターンについて説明します。
オレンジ色の部分はまな板に乗ったニンジンだと想像してみてください。
① 接触 刃先の仕上げ
食材に最初に接触し、「切れ味の第一印象」に大きく関係する大切な部分です。
図の左が鋭い仕上げの刃先、右が丸くなった刃先です。
「刃先」が鋭く仕上げてあるほど、刃を動かした瞬間に「トマト・ピーマン・ナス」などの表面に気持ち良く刃先が入ります。

② 切り込み 切り刃の砥ぎ角
切り込んでいくときの抵抗が少ないほど切れ味が良いと感じます。
下図は刀身の厚さは同じですが、左は鋭角に砥いだ刃先、右は鈍角に研いだ刃先です。
鋭角の方が切り込んでいくときの抵抗が少なく、結果的に切れ味が良いと感じます。

③ 切り抜け1 刀身の薄さ
下図は、刃先の砥ぎ角は同じですが、左は薄い刀身、右が厚い刀身です。
砥ぎ角が同じでも、食材に切り込んでいったときにどちらが最後まで切りやすいか想像できると思います。
刀身が薄い包丁なら滑らかに切れても、刀身の厚い包丁で切り分けようとすると食材が割れてしまうことがあります。
下図にある2種類の包丁がこのまま切り進むと、右の包丁の方が切り込み抵抗が強く、そのまま切り抜けようとすると食材を割ってしまう可能性が高いと想像できます。
刀身が薄い方が切り抜けが良い、つまり「切れ味が良い」と感じます。

④ 切り抜け2 刃付けの割合
刃付けの割合というのは、左右の切り刃の割合です。
両刃は5:5、片刃は10:0です。
右が7割、左が3割で砥がれている場合は7:3の両刃と表現します。
刀身の厚さが同じでも、刃付けの割合を変えると切れ味が変わります。
下図は左が5:5の両刃、右が10:0の片刃です。
4つの要素の「接触・切り込み」は両者ほとんど変わりませんが、切り込んだ先の「切り抜け」は、両刃の方が優れています。
片刃は刃付けの方向に沿って斜めに切り進もうとするため、食材の中で進路が曲線的になり切り込み抵抗が増えます。
結果的に切れ味は悪く感じ、最後は食材を割りながら切り抜けることがあります。

たとえ硬くても高さ1㎜の食材なら「切り抜け」という概念がないので、どのような包丁でも切れ味に対して影響は少ないです。
また、高さのある食材でも、肉や魚などの柔らかい食材なら、刃付や刀身の厚みを食材が変形して吸収するので、刃先が鋭く仕上げられている包丁ならどれも切れ味が良いと感じます。
刺身包丁は刀身が厚く、片刃の包丁なので、大根など高さのある硬いものを切ると切れ味が悪く感じますが、柔らかい「刺身」を切るなら切れ味が良いと感じます。
食材の高さや硬さなどの条件によって切れ味が変わるのですが、切れ味の総合得点が高い包丁の条件は、「刃先の仕上げが鋭く、砥ぎ角が鋭角で、刀身が薄く、刃付けが両刃」ということになります。
つまり「家庭用万能包丁」ということです。
中でも、刀身が薄い新品の家庭用万能包丁が、切れ味の総合得点が高いと言えます。
このように考えると、第一回で紹介した「KISEKI:」という包丁は、新品状態では上記4つの評価の合計点が最も優れている包丁と言えます。
◎余談
和包丁は砥ぎ角が鋭いのですが、刀身が3~4㎜と厚く、刃付けは片刃です。
洋包丁と比較すると、硬い食材の切り分けが苦手だとわかります。
「和包丁は切れ味が良い」と言われることがあるのですが、その条件は主に「柔らかい食材」か「高さの低い食材」に対してということになります。
下図の赤い部分が和包丁と洋包丁の「切り刃」です。
大根などの硬い食材がどのように切れるかそれぞれイメージしてみてください。

逆に、ダイソー(100均)の包丁は刀身がとても薄いため、硬い食材の切り分け作業では「切れ味が良い包丁」と言えるのですが、鋼材が柔らかいので刃先が丸くなりやすく、「接触」や「切り込み」の項目で切れ味が落ちやすいと言えます。
◎切れ味は何で決まるか
「切れ味」は、一概に良い悪いではなく、各要素が複雑に絡み合って決まると言えます。
ただし4要素の全てが揃えば、どの食材に対しても最大の切れ味を発揮できます。
◎科学的な視点の切れ味
科学的な視点から見た「切れ味」は、「同じ結果を出すために使われるエネルギーの量(少ないほど切れ味が良い)」と言えるかもしれません。
◎切る人目線の切れ味
人間視点から見た「切れ味」は「人間側にかかるストレスの量(少ないほど切れ味が良いと感じる)」と言えるかもしれません。
・ストレスの量は数値化できない
・ストレスの量は本人だけにわかる相対的なもの
本題は以上です。
第三回「包丁の性能は人が完成させる」へ続きます。
以下は余談です。
◎余談:刃離れと切れ味
※「刃離れ」と「切り離れ」の違いについてはこちら
たとえば両刃で大根の薄切りをする際の「ズッコケ」は「切れ味」のひとつと言えるのか・・・
食材を薄く切っていると、こんな疑問が浮かんできます。
両刃で薄切りの際の「ズッコケ」動画(両刃で薄く切ろうとすると起こりやすい現象)
【ズッコケる薄切り】
片刃で薄切り(安定する)
【ズッコケない薄切り】
以下はニンジンの半月切りの比較動画です。
前半10枚が片刃、後半10枚が両刃で切っていますが、後半両刃で切ったときに何度か「ズッコケ」現象があります
ユニバーサルエッジで薄切りの刃離れ効果の実演をしているときに「この包丁って切れ味いいですね!」と言われることがあるのですが、ユニバーサルエッジは切れ味を追求した包丁ではないので、「切れ味が良い」という表現にはなにか違和感があります。
しかし、ユニバーサルエッジのように新品時から「刃離れ効果」を狙って作られた家庭用包丁がこれまでになかったため、一般の人は「刃離れが良いですね!」と表現することはできません。
表現する言葉がないため「切れ味が良いですね!」と表現するしかないということだと思うのですが、これは新しい言葉を作れば解決すると思います。
良好な刃離れ効果を見て「切れ味が良い」と表現する人は、上に紹介した「大根のズッコケ動画」を見て「切れ味が悪い」と表現するのか・・・このあたりも興味があります。
「刃離れが良いイコール切れ味が良いというわけではない」、これをどう伝えるか考える余地がありそうです。



