「包丁の常識を疑う」シリーズ【第1回】 なぜ高級包丁でもトマトの皮がめくれるのか
「包丁の常識を疑う」シリーズとして、包丁にまつわる下記の話を検証したいと思います。
「全四話」の予定です。
第一回「なぜ高級包丁でもトマトの皮がめくれるのか」
第二回「切れ味はなにで決まるのか」
第三回「包丁の性能は人が完成させる」
第四回「包丁の使い方も合わせて提案したい」
第一回は、「なぜ高級包丁でもトマトの皮がめくれるのか」というテーマです。
「高級包丁でトマトを切ると、皮がめくれず、細胞も傷つけずきれいに切れる」と思っている人も多いと思いますが、その本質を考えたいと思います。
「高級包丁(家庭用万能包丁)」の代表として、「KISEKI:」という包丁が登場します。
◎高級包丁とは
「高級包丁とは」と検索すると様々な定義を見つけることができますが、ここでは家庭用万能包丁として2万円以上のものを「高級包丁」と定義します。
高級包丁は、高級鋼材やこだわりの刃付けによって、とても良い切れ味が期待できる包丁として販売されています。
物価の高騰の影響もありますが、現在は3万円以上の家庭用万能包丁も当たり前になっています。
◎高級包丁の性能
「高級包丁なら食材をきれいに切れる」「トマトの断面はつやつやで皮もめくれない」と思っている方も多いと思います。
しかし実際は、半分正しく、半分間違いです。
先日、新品状態で世界最高レベルとも言われる切れ味を持つ高級包丁「KISEKI:」の紹介動画(※)を見ていたところ、トマトを切るシーンで、皮が少しめくれていることに気付きました。
※動画
衝撃の切れ味!この包丁に宿るサムライスピリット!日本初の超硬合金包丁の開発物語
YouTubeチャンネル「Amazing JAPAN(以下AJ)」より引用
画像
以下の黒い円内が断面のザラツキ、黄色の円内が皮のめくれです。

このトマト断面は、実演販売の場では「切れ味が悪い包丁の切れ方」と紹介されるものです。
「え? あのKISEKI:でも皮がめくれるの?」と思った方もいるかもしれません。
しかし、私が注目したのは包丁ではありません。
注目点は「切り方」です。
普通に砥いだ普通の包丁でも、「切り方」を重視すると以下のように切ることができます。
弊社オススメの切り方で切ったトマト(弊社の動画キャプチャ)
ユニバーサルエッジの切れ味そのものは「KISEKI:」に劣りますが、正しい切り方によって包丁の性能を引き出すため、皮がめくれていないことがわかります。

新品の包丁でこの切り方を心がければ、これまでめくれてしまったトマトの皮にKISEKIが起こります。
KISEKI:という最高の道具と、技術の「両輪」で切れば、よりきれいに切ることができます。
弊社がオススメするトマトの切り方については以下を参考に。
両刃でもOK 超こまかいトマトのくし形切り
◎高級包丁でも「めくれ」が起こる理由
KISEKI:は、刀身の薄さ、鋼材の硬さ、刃付けなど、家庭用万能包丁として最高レベルの性能を持った包丁です。
新品時の切れ味については、私も非常に優れた包丁だと考えています。
それでもトマトの皮がめくれてしまうことがあるのですが、理由はとてもシンプルです。
包丁の性能ではなく、切り方によって皮に負担がかかってしまうからです。
トマトを最後まで押し切るように切ると、最後に包丁の刃先が皮を実から離すような力が働き、皮が実から離れやすくなります。
この現象は、程度の差こそあれどんなに高級な包丁でも起こります。
切り方によっては、高級包丁でもその切れ味を発揮できないということです
下図は、ひとつのトマトを半分に切る作業の終盤のイメージです。
トマトの赤い部分が皮、緑の部分が実です。
トマトに包丁を乗せ、包丁の刃を前に出しながら切り込んでいき、その次の動作で皮がめくれるかどうか決まります。
ハンドルを下向きに押しながら切る「A」の切り方、そして、ハンドルの高さはそのままで引いて切る「B」の切り方があり、KISEKI:の動画では、トマトに切り込んだあと、Aの切り方をしています(KISEKI:の動画17:10あたりから)。
そのため、皮がめくれてしまいました。
トマトの切り方AとB

Aが不正解ということではなく、むしろ一般家庭では普通の切り方かもしれませんが、仮に普通の切り方だとしたら、「いくら道具が優れていても、きれいに切るには切り方を学ぶ必要がある・技術がないと切れ味を発揮できない」ということがわかります。
以下、皮がめくれてしまう理由を図解します。
作業前半は、皮の上に包丁を乗せて皮から切り始めて実を切りますが、作業後半は、トマトの皮と実の位置関係が逆転していきます。
トマトの皮は硬いため、たとえ切れ味が良い包丁で切っても、上から押し切るような切り方(上図A)をするとトマトの皮がめくれてしまいます。
細かい話を抜きにして簡単に書くと、トマトの皮がめくれてしまうのは、最後に垂直切り、またはそれに近い切り方で皮を切ることになるからです。

どんなに切れ味が良い包丁でも、Aように上から押しつぶすように切ると、皮が実から離れる力が働き、皮がめくれてしまいます。
※トマトの品種やが柔らかさでその度合いは変わります
図解
以下の切り方(上図Aの切り方)では、どんなに高級包丁でも皮がめくれやすい

◎「切れ味」は包丁だけでは決まらない
包丁そのものの性能はもちろん重要です。
これらは切れ味を決める重要な要素です。
しかし、実際に食材を切るときに大切なのは、それだけではありません。
切る人の技術も、切れ味の一部です。
私はこれまで多くの包丁や切り方を研究してきましたが、「切り方」を少し変えるだけで、同じ包丁とは思えないほど断面の表情が変わることを確認しています。
◎まとめ
高級包丁でもトマトの皮がめくれることがありますが、それは包丁の切れ味が悪いからではなく、切り方によって起こる現象です
どんなに切れ味が良い包丁でも。切り方を間違えれば性能を発揮することができなくなります。
ではあらためて、紹介した動画の17:10あたりをご覧ください。
動画:
衝撃の切れ味!この包丁に宿るサムライスピリット!日本初の超硬合金包丁の開発物語
YouTubeチャンネル「Amazing JAPAN(以下AJ)」より引用
以下の黒い円内が断面のザラツキ、黄色の円内が皮のめくれです

「最高の切れ味」の包丁で切っているのですが、最後まで「押し」て切っていることがわかり、17:26で動画を静止すると、トマトの皮が少しめくれていることと、皮がめくれた近辺のトマトの細胞が荒れている様子がわかります(切れ味が悪い包丁で切ったときに起こりやすい現象です)。
参考:ABCクッキングスタジオのトマトのくし型切り
参考までに、「切れ味」と「切り方」の両方が適切でない条件で切ると、トマトのくし形切りは以下のようになります。
料理教室として有名な「ABCクッキングスタジオ」のトマトのくし型切りの公式動画をご紹介します。
これは切れ味が落ちた包丁を使っているだけでなく、「切り方」も影響しています。
ABCクッキングスタジオ動画画面0:50より引用
黄色の丸の中、特にトマトのヘタ付近の皮が大きくめくれていることがわかります

「包丁の常識を疑う」シリーズ第一回は以上です。



