研ぎ方(シームレス砥ぎ)
厨房での実際の作業風景
ユニバーサルエッジ(片刃のシェフナイフ)のような、刀身が「しなる」包丁には、「シームレス研ぎ」が使えます。砥石の対角線上に刃を乗せ、18度ほど刃を起こし、そのまま動画のように研ぎます。
※研いだ後、切れ味が回復していれば正しい角度で研いでいます。回復していない場合は、もうすこし包丁を起こして研いでみてください
最後は刃の左側の「かえり」を軽く取り除いて終わります。研ぐ頻度と時間は、一般家庭で通常使用の場合、週に1回、1分程度です。
(包丁の使用頻度によって変わります)
シームレス砥ぎは
「砥ぐのはめんどくさい・砥ぎ方がわからない」
を解決します
包丁の切れ味が良いほど料理が楽しくなることは、料理をする人の共通の認識です。しかし、包丁は、使えば使うほど切れ味が落ちてしまいます。そこで、どんな包丁でも「砥ぐ」という作業が必要になりますが、「めんどくさい・砥ぎ方がわからない」と悩む方も多くいらっしゃいます。
現在、4つの対策が主流ですが、この方法で悩みを解決することができない方もいます。以下、4つの対策の「メリット・デメリット」と、私がおススメしている「シームレス砥ぎ」を紹介します。
【これまでの砥ぎにまつわる4つの対策】
1:新しい金属の開発 2:砥ぎ直しサービス
3:砥ぎ方教室 4:簡易シャープナー
1:新しい金属の開発
「砥ぐのが面倒なら砥ぐ作業の回数を減らせばいい」という考え方をベースに、切れ味が長く続く金属の開発が進んでいます。「長切れ(永切れ)」と呼ばれるもので、近年は長切れする素晴らしい金属が開発されています。長く切れるということは簡単に言えば「硬い金属」ということになり、メリットの反面、一般ユーザーには硬すぎて砥ぎにくいというデメリットも生まれます。また、金属の価格が高価になってしまうという点もデメリットと言えます。
長切れする金属は、結局砥ぐ作業の回数が減るだけで、砥ぐ作業そのものがなくなるわけではなく、ユーザーの悩みを根本的に解決するに至っていません。
「砥ぐのが面倒」というのが長切れする金属の開発の理由になっているなら、砥ぐのが面倒でなくなれば、長切れする金属は無用になります。
シームレス砥ぎは1分で砥ぐことができ、毎日でも気軽に砥げます。その結果、安価な包丁でも切れ味を維持できます。
2:砥ぎ直しサービス
メーカー純正の鋭い刃付けをしてもらえるのは魅力ですが、費用と時間だけでなく、代わりの包丁も必要になります。「1回無料」などで砥ぎ直しサービスをし、ユーザーの悩みに対応しているメーカーもありますが、2回目からは有料です。
包丁は10年単位で使えるものですから、半年に一度の砥ぎ直しでも20回の砥ぎ直しが必要になり、費用が包丁の価格を超えてしまいます。
さらに、半年に一度の研ぎ直しは、砥ぐ前と後の切れ味の差が大きくなるため、使い始めはうっかり切れすぎてしまい、思わぬケガの原因にもなります。
また、砥ぎに出している間の代わりの包丁が必要になります。
シームレス砥ぎは、自分でできるので費用は砥石代だけですみ、代わりの包丁も無用です。
しかも頻繁に砥げるので、切れ味の差が出にくく、安全です。
3:砥ぎ方教室
砥ぎ方教室を開くメーカーもあります。
しかし「砥ぎ方に正解なし」と言われるように、各メーカーが独自の研ぎ方を伝えているのが現状です。教室に参加しても、それをしっかり記憶して実践できる人は少なく、勘違いしたまま刃線の乱れができてしまうことも多くあります。
シームレス砥ぎは砥石の対角線を使った単純な砥ぎ方なので、間違えて覚えるということはありません。
また、通常の研ぎ方は、3カ所に分けることがほとんどですが、シームレス砥ぎは刃線の全部を同時に砥ぐため、刃線が乱れません。
砥ぎ方を覚えれば、生涯変わることなく使える方法です。
4:簡易シャープナー
どのメーカーも、包丁は「砥石」で砥ぐことを推奨していますが、それでも面倒という人のために用意したものが「簡易シャープナー」です。
簡易シャープナーは、刃に傷をつけて「ノコギリ刃」のような仕上げにし、一時的に切れ味を回復するというイメージの砥ぎ方です。
そのため刃の負担が大きく、切れ味もすぐに落ちてしまい、砥ぎ直しの頻度が増えて包丁の寿命が短くなります。
砥いでいるときの「ガリガリ感」は好みが分かれます。
シームレス砥ぎは、簡易シャープナーと比較すると少し手間がかかりますが、砥石を使っているので仕上がりは滑らかです。
シームレス砥ぎの方法
ステンレスの特徴を最大限に活かした新しい砥ぎ方です。
峰厚1.8㎜以下、刃渡り18㎜前後の家庭用包丁なら、ほとんどの包丁に対応でき、切れ味はしっかり回復します。
①長さ20㎝以上(標準的な大きさの砥石)の6000番の砥石を準備し、砥石の表面を水で濡らしてから硬く絞ったタオルの上に置きます。
※私は12000番を使っていますが、慣れていない方には6000番をオススメします。
※ダイヤモンド砥石については、よくある質問コーナーのQ17を参考にしてください
②包丁の刃を対角線に置き、18度前後に包丁を立て、切っ先を押さえつけたまま数十回研ぎます。
③片刃の場合は、片側だけ砥ぎ、最後に「かえり」をとって終わりです。
※裏はベタ砥ぎではなく、峰を数ミリ浮かせて刃先を軽く砥いでバリを取り除きます(刀身は砥石に触れません)。
④トマトや紙で切れ味の回復を確認できたら終了です。
切れ味が回復していない場合は、さらに少し包丁を立てて同じことを繰り返します。
慣れてくれば「自分の角度」ができるので、砥ぐ時間が短くなります。
・切れ味は業務レベルの鋭さを保つことができます
・頻繁に砥ぐことができるため高価な包丁を買う必要がありません
・簡単に砥ぐことができるので、気が向いたときに誰でも手軽にできます
・一度に全部の刃線を砥ぐので刃線が乱れません
・簡易シャープナーよりも鋭い刃付けができて料理が楽しいです
砥石のメンテナンス
1000番の砥石を用意し、砥石同士を擦り合わせ、砥石の面を平らに保ちます。
水をつけながら数十秒こすり合わせることで、砥石表面の金属紛がなくなります。
作業の後は砥石の水分を拭き取って終わりです。
※1000番の砥石は、小さな刃こぼれのときにも役立ちます
シャープナーや砥ぎ棒はダメなの?
シャープナーや研ぎ棒もありますが、砥石をお勧めしています。理由は2つあります。
1:「刃線」が乱れやすいから
簡易シャープナーや砥ぎ棒では、刃線の中央部分に力が入りやすくなり、刃線が乱れてしまいます。特に、包丁のアゴ部分の砥ぎがおろそかになりやすく、刃とまな板の間に隙間ができてしまいます。刃線が乱れた包丁では、安全で効率的な「スライド切り」をしたときに切り離れが悪くなり、切り離れを確保しようとすると、必然的に「スライドスイング切り」になってしまいます。スライドスイング切りは、スライド切りと比べ、「動きが大きくなる・時間がかかる・ケガをしやすい」などのデメリットがあります。
2:ノコギリ刃になり包丁の寿命が短くなるから
砥ぎ棒や簡易シャープナーは、刃をノコギリのようにギザギザに砥ぐことで、食材への食いつきを良くし、切れ味を増すという考え方です。
ノコギリ刃は「鋭さ」ではなく「ひっかかり」で切断をしているため、刃の減りが早くなり、包丁の寿命が短くなります。
砥石で砥いだ場合
シャープナーで
砥いだ場合